スタッフ
監督:アレクサンダー・コルダ
製作:アレクサンダー・コルだ
脚本:カール・ルックマイヤー
撮影:ジョルジュ・ベルナール
音楽:ミュア・マシスン
キャスト
レンブラント / チャールズ・ロートン
ジールチェ / ガートルード・ローレンス
ヘンドリキェ / エルザ・ランチェスター
ファブリティウス / エドワード・チャップマン
ティツュース / ジョン・ブライニング
ティツュース(子供時代) / リチャード・ゴート
オルニア / マインハルト・マウル
フィンク / ジョン・クレメンツ
ルドウィック / レイモンド・ハントレー
日本公開: 1937年
製作国: イギリス ロンドン・フィルム作品
配給: ユナイト
あらすじとコメント
実在の画家の半生を描く作品。前回はゴッホだったが、今回はレンブラント。しかも、17世紀という時代を背景にした破天荒というよりも、人間としての悲劇性をあぶりだす作品。
オランダ、アムステルダム最愛の妻を亡くしたレンブラント(チャールス・ロートン)は、妻の亡骸がなくなる前に、葬儀に来た人間に挨拶もせず、その横で、絵筆を取っていた。彼にとっては、妻は、すべての女性の集大成であり、時代、人種に関わらず、女性画のモデルであったのだ。
しかし、彼は、金になる金満家の肖像画の仕事などには目もくれず、好きに書いていたので、常に貧窮状態であった。それでも、生き方を変えようとせず、長年勤める家政婦ジールチェ(ガートルード・ローレンス)も、彼の生活態度を非難した。遂に意を決して、市民隊16名の肖像画の依頼を受けた彼は、『夜警』を仕上げた。しかし、肖像画としては余りにも暗い画法であり、散々な非難を浴びてしまう。当然、支払いは成されず、禁治産者扱いとなってしまう。
失意の彼は生れ故郷に戻るが、そこでもすぐに精神的、肉体的に限界を感じ、ストックホルムの家に戻った。そこで、彼を迎えたのは、新しい家政婦ヘンドリキェ(エルザ・ランチェスター)。
見ず知らずの男に怯える彼女を見た瞬間・・・
破天荒ではないが、素直に好きなことをして生きた画家の生涯を描く。
反骨精神があり、成り上がりの金満家には手厳しい画家。
世界中の誰もが、どこかで一度は見たことがあるレンブラントの代表作『夜警』は、当時、権力と名誉の象徴であった「市民隊」の面々を描いた作品だが、モデルとなった彼らからは絵が暗過ぎるし、顔も全員が判別できないと大不評を受けた。
そんな彼らに、眼に見えるものがすべてではなく、彼らの心をそのまま描写したのだと言い放つ。権力者からすれば、この貧乏画家風情が、という扱いを受けるのは当然であろう。
しかし、レンブラントは、反体制活動家ではなく、どこか等身大の人間であったと描かれる。
彼が絵のモデルとしてインスパイアを受けるのは、早逝した妻であり、年老いた物乞いである。市井の人間の寂しさや悲しさに、真の人間の姿を重ねる。
17世紀という時代もあろうが、生存中はほとんど評価されなかった画家。
本作は最愛の妻の死の直後が、先ず描かれ、その十年後、そして最晩年という三部構成で綴られる。
どの世代でも、彼は困窮しており、息子や新しい家政婦という味方と、体制側や古い家政婦といった敵役と分かりやすい人物を配して進行するが、彼自身は生涯、同じ価値観の下で生き抜いたと描かれる。
本作が製作された時代性からすれば、当然なのだが、現在では、まどろっこしく、冗長な進行と受け取る観客も多いに違いない。
それでも、主役を演じるチャールス・ロートンのふてぶてしさとナーバスな極端な面を醸しだす演技は秀逸である。
また、レンブラントの後妻となる家政婦役のエルザ・ランチェスターは実生活でも夫婦であり、二人は他にも、ロートンがアカデミー主演男優賞を受賞した「ヘンリー八世の私生活」(1933・未)、ビリー・ワイルダーの秀作「情婦」(1957)でも共演している。
ロートンはイギリス出身であるが、ハリウッド映画でも抜群の存在感を示した名優。
また、監督であるアレキサンダー・コルダ演出は、短いカッティングで時間経過を程よく理解させたり、逆に敢えて、じっくり描く場面を設け、メリハリを付けている。
ロケを多用した自然光下での場面も臨場感を盛り上げていると感じる。
ただし、敢えて、レンブラント自身の画をある程度見ていることが前提なので、直截的に描かれた絵を見せないとか、早逝の妻の姿を一切画面上に乗せない演出など、美術館とのコラボレーションかと勘繰る人もいるだろう。
それでも、幾ばくか、まどろっこっしい進行と映像だが、イギリス映画の流れに興味がある人間は、一度は見ておくべき作品だろうとも感じる。