スタッフ
監督:アラン・ジョンソン
製作:メル・ブルックス
脚本:トーマス・ミーハン、ロニー・グラハム
撮影:ジェラルド・ハーシュフェルド
音楽:ジョン・モリス
キャスト
ブロンスキー / メル・ブルックス
アンナ / アン・バンクロフト
ソビンスキー中尉 / ティム・マティソン
エアハルト大佐 / チャールス・ダニング
シレツキー教授 / ホセ・ファーラー
シュルツ大尉 / クリストファー・ロイド
サーシャ&ムツキ / ジェームス・ハーク&スキャンプ
ラヴィッチ / ジョージ・ゲインツ
ドービッシュ / ジャック・ライリー
日本公開: 1984年
製作国: アメリカ ブルックス・フィルム作品
配給: 20世紀フォックス
あらすじとコメント
前回が砂漠を横断して逃げる「脱出モノ」。好きなジャンルのひとつであり、何本かは、ここでも扱った。今回は、砂漠からではないが、命からがら逃げるという内容で、オリジナルはサイレント時代からの名匠エルンスト・ルビッチの作品。
ポーランド、ワルシャワ第二次大戦前夜の1939年、大人気の劇団で、自分の名前を冠した劇場を持っているブロンスキー(メル・ブルックス)は、愛妻で花形女優のアンナ(アン・バンクロフト)らと共に満員の観衆の前で熱演していた。
そんなアンナの楽屋に、毎日、同じ客から花束が届けられた。アンナ自身は満更でもないが、彼は面白くない。アンナは、花の贈り主が二枚目の若い空軍将校ソビンスキー(ティム・マティスン)だと知ると、亭主の「ハムレット」の長台詞の間に、密かに楽屋に来るように手配した。そんな事とは露知らず、毎回決め台詞の時に席を立つ若い男に動揺するブロンスキー。
そんな中、ついにドイツ軍がポーランドに侵攻し、ワルシャワも空爆され、あっという間に占領されてしまった。
当然、公演が出来なくなったブロンスキーらは・・・
リメイクとしては成功の部類に入る、展開の妙があるコメディの佳作。
国がドイツ軍に侵略され、劇場は閉鎖されるわ、豪邸は秘密警察に接収され、妻には浮気疑惑が持ち上がり、という踏んだり蹴ったりの主人公。
間違いなくコメディとして完璧な設定。その上、舞台関係者のユダヤ人家族らを地下室に匿ったり、スパイ騒動に巻き込まれるというサスペンスも加わって、ワクワクさせられる展開。
とはいっても、その素晴らしい設定は、ビリー・ワイルダー監督が師匠と崇める名匠エルンスト・ルビッチによる「生きるべきか死ぬべきか」(1942)オリジナルの設定そのまま。
それを、ほぼ忠実に再現しているから、設定自体が面白くないわけがないのではあるが。
さらに、本作が好印象なのは、いつも監督と主演を兼ねるメル・ブルックスが、本作では監督していないことも重要視されるべきであろう。
好き嫌いが分かれる典型的な人物であるが、個人的には『やり過ぎ感』が強い監督だなと感じている。
やはり、「笑いのツボ」は、その国によって絶対に違うと思っているので、バタ臭いというか、イモ臭いブルックスのコメディは、途中で食傷気味になるのだ。
本作でも、その「イヤラらしさ」は時折、匂い立つが、ブルックスらしさで突っ走る寸前に、思い留まっているのは、最大限にルビッチへの敬意を表していると感じられる。
それでも、ルビッチらしい洒落て粋なコメディの再現は不可能と知っているのか、若干の変更が加えられている。
例えば、冒頭の主役二人によるフレッド・アステアとジンジャー・ロジャースの名コンビで有名なスタンダード曲を、いきなりポーランド語で歌い踊らせたり、ユダヤ人狩りの他に、男色家にはユダヤの「星マーク」をもじって「ピンクの三角」を付けさせ、強制収容のターゲットにされるという、「被差別」と「理解」に対するブルックスらしさを嗅ぎ取れる。
そうはいっても、ルビッチのオリジナルが日本で公開されたのは、本作公開後五年経ってから。
自分も、こちらを先に鑑賞したので、当時、ブルックスにしては、非常に面白く、彼の作品の中でも最高位に値すると思った。
最近は、本作とオリジナルの双方、DVDも発売されているし、レンタルも可能だろうか。
両作を見比べると、ルビッチらしさとブルックスらしさ双方を感じ取れる好材料であるから、一興かもしれない。
どちらも、見て損はない作品であるから。