スタッフ
監督:ジョージ・スティーヴンス
製作:ジョージ・スティーヴンス
脚本:ジェームス・リー・バレット、G・スティーヴンス
撮影:ウィリアム・C・メラー、ロイヤル・グリッグス
音楽:アルフレッド・ニューマン
キャスト
イエス・キリスト / マックス・フォン・シドー
聖母マリア / ドロシー・マクガイア
洗礼者ヨハネ / チャールトン・ヘストン
ヘロデ大王 / クロード・レインズ
ピラトゥス / テリー・サヴァラス
サタン / ドナルド・プリーゼンス
ヘロデ / ホセ・ファラー
キレネのシモン / シドニー・ポワティエ
百人隊隊長 / ジョン・ウェイン
日本公開: 1965年
製作国: アメリカ G・スティーヴンス・プロ作品
配給: ユナイト
あらすじとコメント
前回は、人類の歴史や宗教をパロディにしたコメディだった。今回は、至って真面目にキリストの生涯を壮大なるスケールで描いた巨編にした。難しい書物で読むよりも視覚に訴える映画でこその表現が堪能できる。
ベツレヘム三人の賢者が、エルサレムのヘロデ王(クロード・レインズ)の元を訪れ、神の子が生まれたので探しに来たと告げた。自分こそが星に選ばれた絶対王であると信じるヘロデ王は、人民が神のお告げを信じ、やがてその考えを布教していくことを嫌い、エルサレムの赤児全員の虐殺を命じた。
しかし、イエスは難を逃れる。やがてヘロデ王が死ぬと、長男(メル・ファラー)が跡を継ぐが、遂に人民が決起し、新王はローマ軍に救援を要請した。以前より、その地を欲しかったローマ帝国は、沈静化直後に領地を没収してしまう。
時が経ち、預言者である洗礼者ヨハネ(チャールトン・ヘストン)が、洗礼している場所に、不意に清廉で神がかった青年が現れ、洗礼を望んだ。ヨハネはそのオーラに驚くと、洗礼せずに青年に名を訪ねた。
自分はイエス(マックス・フォン・シドー)と名乗ると、貴方こそ聖書に書いてある救世主であると・・・
新約聖書を壮大なスケールとオールスター・キャストで描く一大叙事詩。
この世に生を受け、成長してからの布教活動を丁寧に描いていき、徐々に人身の心を掴んでいくイエスの姿から、磔にされるまでを3時間以上かけて描く。
空撮から大規模ロケーションと、予算をふんだんにかけ、イエス・キリストの行いを教授する啓蒙映画でもある。
確かに、難しく古臭い文章で『聖書』を読むよりも、映像叙事詩として見せられれば、子供や文字が読めない人間でも理解しやすい。
イエスが次々に、貧しき人間たちに影響を与え、そのことが逆に、権力者への圧力となり、当然、権力者たちは迫害を命じる。
いつの世も権力にまみれ、そういう価値観の中で生きていれば、どうしても同じ価値観の人間が集い、自分らの優位性を固持したがるもの。
しかし、イエスは静かに武力や暴力に頼らず奇蹟を起こして行く。ゆえに彼を信ずる者が追従してくるのだ。
誰でも一度は聞き及んだことのあるエピソードが、次々と画面に登場してくる。
興味深いのは、表だって迫害を命ずる国王やローマ軍司令官などは男性であるが、不倫によって結ばれた新ヘロデ王の妻や貫通罪のマグダラのマリアなど、女性にも罪人がいると、さり気なく描いて行く。
要は、人間は誰もが罪人であり、完璧な者はいないと描き続け、やがて、イエスが、自分は神だと宣言するあたりから、個人的には、どうにも違和感を覚えた。
自分こそが唯一の神であり、自分を信ずれば世界人類は平和になると。キリスト教信者ではない人間からすれば、それこそが戦いを誘発するとも感じた。
当初は、言葉による伝道なのであるが、後半からイエスが行う「奇蹟」を映像で見せられると、例え計算され尽された、さり気なさが勝る場面でも、急にSFっぽく感じてしまった。
それは、自分が罪深く、悔い改めることのない人間だからに違いなかろうが。
今回、DVDで再見して感じたのは、ジョージ・ルーカスの「スター・ウォーズ」(1977)は、ロケ地が同じであるからかもしれぬが、かなりインスパイアされているなと。
家や門柱のセット前での群衆シーンや、俯瞰撮影に至るまで、酷似していて、宇宙船でも飛びだしてくるのではないかとさえ感じた。
出演陣では、チャールトン・ヘストンは「十戒」(1956)、「ベン・ハー」(1959)などで、筋骨隆々ぶりを見せ付ける歴史大作に出演しているので、さもありなんというか、妙な安心感があるものの、ジョン・ウェインは、「史上最大の作戦」(1962)以上に、登場時間が少なく見せ場もないはご愛嬌か。
また、他のスターたちも、製作時の人気や知名度により、いかにもの悪役に廻ったり、登場場面の多少に関わらず、印象的に起用されたりと、誰が、どの場面で登場してくるのかと長尺を飽きさせないような、バランス感覚に富んでいる。
しかし、何と言っても、イエスを演じたマックス・フォン・シドーが印象的。彼自身、良くぞ、キリスト役のオファーを受けたと思うが、抑えた演技で、それらしいと感じさせる。
本作はシネラマで製作されたこともあり、やはり、大画面で鑑賞すべき超大作であるが、その形式で上映できる映画館が絶滅したことが残念。
イエスではないが、誰か、シネコンではない映画館再興の布教活動をしてはくれまいか。