スタッフ
監督:ウィリアム・ワイラー
製作:サム・ジンバリスト
脚本:カール・タンバーグ
撮影:ロバート・サーティス
音楽:ミクロス・ローザ
キャスト
ベン・ハー / チャールトン・ヘストン
エスター / ハイヤ・ハラリート
アリアス / ジャック・ホーキンス
メッサラ / ウテーフン・ボイド
イルデリム族長 / ヒュー・グリフィス
ミリアム / マーサ・スコット
ティルザ / キャシィ・オドネル
サイモニデス / サム・ジャフェ
バルサザール / フィンレイ・カレー
日本公開: 1960年
製作国: アメリカ MGM作品
配給: MGM
あらすじとコメント
チャールトン・ヘストン主演の史劇大作で繋げた。ユダヤとローマ帝国の確執を壮大なスケールで描ききった映画史上の秀作の一本。
ローマ帝国支配下のユダヤ。一世紀初頭、エルサレムの都に新総督が就任するので、お付の司令官としてメッサラ(ステーヴン・ボイド)が先陣を切ってやって来た。
その姿を見て、興奮を抑えきれないユダヤ人豪商のベン・ハー(チャールトン・ヘストン)。彼らは幼馴染で、兄弟のように育った仲であった。
再会を喜ぶ二人だったが、ユダヤではローマ帝国に対する不穏な動きがあるとして、メッサラは、ベン・ハーに帝国側協力者になるように勧めた。しかし、ベン・ハーは断固これを拒否。年月は、互いに変化をもたらしていたのだ。もはや友情はこれまでであり、以後はローマの奴隷民であるユダヤ人として扱うとメッサラは宣言し、袂を別った。
やがて新総督が就任してきた。ユダヤ人の誰もが複雑な表情で迎える中、ベン・ハーと妹のティルザ(キャシィ・オドネル)も、自宅の屋上からその様子を見ていた。丁度、総督が家の下を通りかかった時、古くなっていた屋根瓦の一部が崩れ落ち、総督を直撃してしまう。すぐに、ローマ軍がベン・ハーの屋敷になだれ込み、彼と妹、母親の三名を逮捕する事態になった。これは事故であり、故意ではないと無実を叫ぶベン・ハーにメッサラは言い放った。
もう二度とこの地に戻れぬよう、お前は奴隷として軍船の漕ぎ手になるのだ、と・・・
復讐心に燃える男とキリストの奇妙な関わり合いを壮大なスケールで描く秀作。
豪商である男が、自分の意志を貫こうとしたことから、家族を巻き込み、辛酸甘苦の人生を送るという内容。
主人公の心には旧友への私怨が渦巻き、強固な復讐心を拠り所に、絶対に、何があっても死ぬまいと苦難を乗り越えていこうとする。
そのパワーが本作を引っ張る。一方で、後ろ姿しか見せぬイエス・キリストが、要所要所に登場し、後に奇跡を起こし、彼の心にも変化を生じさせていく。
この対比が4時間近い長尺大作を飽きることなく綴っていくのだ。
当然、主人公の他にも生死の分らぬ母と妹や、恋人、武骨だが慈愛を持つローマ軍の司令官、エジプト人の族長や三賢者の一人などが登場してきて私怨を晴らす主人公に絡んでくる。
それぞれの人間ドラマだけでなく、海戦や戦車競走の派手なスペクタクルシーンも華を添える。
何といっても、ウィリアム・ワイラーによる演出が秀逸。密室劇の秀作「探偵物語」(1951)や、世界中の映画ファンに愛される「ローマの休日」(1953)、善良な市井の家族が凶悪犯に押し込まれるハンフリー・ボガート主演の「必死の逃亡者」(1955)など、どの作品も、同じ監督とは思えない手法で、さりげなく描きながら、ハズレのない作品ばかりを輩出している名監督。
本作も4時間という長尺ながら、見事に緩急の付いた演出によって、まったく飽きずに鑑賞できるのは、脱帽である。
当時、歴史大作というと主役はチャールトン・ヘストンというイメージが強いし、事実、大作ばかりに出演している。
ただ、個人的には、どれも肉体美ばかりが強調され、演技はイマイチという印象であったが、本作では知性もあり、明と暗の演じ分けも素直に感情移入できる知性派俳優として認知できる。
これも、ワイラーの手腕なのだろうと感じ入った。
脇役も有名どころによるオールスターにせず、地味だが、手堅い実力派を揃え、見事である。
そしてキリストの描き方も巧妙であり、数あるキリストの生涯を描いたどの作品よりも、キリストの存在が神がかっていると感じさせる。
主人公の燃えるような情念とキリストの静かなる活力。
直接的ではなく、イメージさせる手法とスペクタクル・シーンは真正面から描くというメリハリ。
下手な啓蒙活動的映画よりも、一個人を主役に据えたことで、よほどキリストの存在が心に入り込んでくる。
流石のワイラーである。
自宅で見直すたびに、劇場で見たくなる稀有な秀作。