年が明けた。元日は、東京でも粉雪が舞い、昨年末の旅行を想起させた。
そんな去年は、旅行の思い出と共に、良い年で終わるはずだった。ところがどうだ。やはり、人生はそう上手く行かない。
30日の夜、自宅で夕食を摂っていたら、何と、突然、インプラントの歯が抜けた。
若い頃の不摂生が崇り、歯に関しては、あちらこちら治療していて、奥歯の一本だけインプラントにしていたのだが、その前後三本含めて、計四本を一塊として処理してあった。
その四本が一度に取れたのだ。あくる日は『大晦日』。当然、かかりつけの歯医者は休み。ほろ酔い気分が吹き飛び、パソコンで近くの休日診療をする歯科医院を慌てて調べた。
結果、実家のタバコ屋から五分程度の場所にある歯科が当番医と知った。遠くなくて良かったと思いながら、待てよ、と思った。
一生モノではないにしろ、数年で取れてしまうものなのか、と。保険適用外で、一年分近い小遣いの金額を支払ったはずだ。しかも、その歯医者は二本ばかりインプラントにしましょうと勧めてくれたが、料金が倍になるので断った。
思い起こすと、その歯医者は母の紹介で、こちらが会社経営者時代から通っているが、どうも今でも金持ちと誤解しているフシがある。というのも、母は未だに「医者」を心底信頼し、その勧めには抗わない。だから、自分も同類と思っているのか。
否や、そこまで単純なら医師資格など取れはしまい。まあ、都内の歯科医院は、数が多く経営が厳しいとも聞く。確かに行くたびに最新機材が入替り、何人もの歯科衛生士や技工士を抱えていては大変だろう。
だからか、いつもそこまで必要かと思うほど、レントゲンを撮ったり、治療には保険適用外を勧めてきた。
こちらが以前よりも低額でお願いしたいと依頼するが、どうしても高額な方で誘導していく。
なので、母親には悪いが、交代したいと思ってはいた。
で、大晦日。朝一番で、その歯医者に行った。へそ曲がりな自分としては、古い一軒家で、最新機材のない雰囲気に、ここは信頼できると、直感した。
取れた歯四本の一塊を見せると、残念ながらインプラントは再度装着できないと。これには驚いた。あれほど高額な支払をしたのに、か。
取り敢えず、年越しの応急処置をしますと言ってくれて、治療してくれた。
個人的には、アナログ人間だし、最新式設備など、便利かもしれぬが、『おためごかし』とか『ハッタリ』で高額誘導するためのものと疑うタイプであるので、小さな治療室で熱帯魚が遊ぶ古ぼけた水槽があるだけで、逆に信用する天邪鬼。
ならば、もし先生だったら、以後、どのような治療をするかと尋ねたら、インプラントは否定しないが、単純に入れ歯しか僕は対応できません、と。
益々、心が傾いた。今までの歯医者なら、取れた言い訳をしつつ、再度インプラントを提示しそう。そして、また、べらぼうな金額を要求されるに違いない。
なので、その歯医者に、新年から宜しくお願いしますと依頼した。初めから、金がないと言っておけば高額治療は勧められないだろうし。
おっと、それとも取れた原因は生活習慣病の悪化か。でも、夏の白内障手術のときは、数値的に大丈夫だったよな。
まあ、正月だし、それも含めて、酒でも飲みながら考えるか。とはいっても、何とも口の中が寂しい新年だよな。