長い灰色の線 – THE LONG GRAY LINE(1954年)

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スタッフ
監督:ジョン・フォード
製作:ロバート・アーサー
脚本:エドワード・ホープ
撮影:チャールス・ロートン Jr
音楽:ジョージ・ダニング

キャスト
マー / タイロン・パワー
メアリー / モーリン・オハラ
マー・シニア / ドナルド・クリスプ
キーラ─ / ワード・ボンド
サンドストローム / ロバート・フランシス
キティ / ベッツィ・パーマー
ドットソン / フィル・ケイリー
アイゼンハワー大統領 / ハリー・ケリー Jr
ハインツ / ピーター・グレイヴス

日本公開: 1955年
製作国: アメリカ コロンビア作品
配給: コロンビア


あらすじとコメント

経験あるヴェテランが若者を教育する。前回同様、今回も「軍人」という職業。違うのは士官候補生という、ある意味、エリート養成学校を舞台にしたジョン・フォードの滋味あふれる好編。

アメリカ、ニュー・ヨークアイルランドからの移民マー(タイロン・パワー)は、上陸すると、すぐにウエストポイント陸軍士官学校にやって来た。食堂給仕の職を斡旋されていたからだ。

ところが、田舎育ちの彼には、規律正しく振舞う士官候補生たちの姿が滑稽に見えた。しかも、給仕としても才能がなく、皿を割っては給料から引かれる始末。労多くして一銭も給料がないのは堪らんとばかりに、歩哨勤務を志願した。だが、そこでも旧友を殴るという問題を起こしたマーは、遂に営倉入りとなる。

そんな時、突然ボクシング担当教官のケーラー大尉(ワード・ボンド)に呼ばれる。そんなに腕っぷしに自信があるなら、俺を殴ってみろ、と。ところが、当然、マーは一発も殴れずノックダウンされてしまう。しかし、大尉は、にこやかに笑うと、助手が必要だから、自分の元に来いと誘った。

渡米して初めて信頼できる人間を見つけたマーは、真面目に助手を務めるようになる。そんなある日、大尉夫人が無口なメアリー(モーリン・オハラ)を連れて兵舎にやって来た。

彼女を見た瞬間、マーは・・・

若き士官育成に命を懸けた実在の男の生涯を描くドラマ。

20世紀初頭、アイルランドから、単身移民して来た若者。身勝手で悪知恵も働く。

そんな主人公に目をかけるボクシング担当教官。生意気な主人公の鼻っ柱を折ってから、慈悲深く育てていく。

まさに、士官を育て上げる教育システムを身に付けた男である。

だが、主人公は士官になるべく志願して来た若者ではないところが本作のミソ。

要は、リーダーとして人生を歩もうとするタイプではない。理論と実践ではなく、直情行動型。本来であれば、すぐにでもこの場所を去るであろう人間なのだ。

そんな主人公が、教官の家庭に来たメイドに一目惚れしたことから、主人公が士官学校に居続けていく理由になっていく。

つまりは主人公は立身出世して士官になることはなく、縁の下の力持ちで生涯を閉じるしかないポジションなのだ。しかも、家庭人としては、決して幸せではないという展開が、胸を締め付けてくる。

生涯、下士官だが、彼が指導した候補生たちには、後に名将軍となるパットンやブラッドレーもいる。

最後には大統領直々に謁見してもらえる人生でもあるのだが、それまでの家庭人としての悲劇性から、孤独感が匂い立つ。

それでも、アイルランド人としての気骨が、その孤独さに立ち向かおうとする姿が切ないのだ。

フォード監督の強烈なるアイルランド賛歌である。ただし、当然、時代性もあろうが、愛国心を煽る戦意発揚映画でもある。

そこに違和感を覚える部分もあるのだが、ここまでストレートに炸裂するフォード節では、妙に納得させられた。

出演者では、妻役のモーリン・オハラの存在感が圧倒的。主役のタイロン・パワーも頑張っているが、オハラの前ではかすんでしまうのが残念。

しかし、個人的にはフォード一家で、主役こそ絶対に張らぬが、どの作品でも存在感抜群のワード・ボンドのボクシング担当教官役が分をわきまえた演技で唸った。

フォード監督は、西部劇以外では自分の故郷であるアイルランドへの愛着をストレートに描くことも多い。そんな一本で、戦闘シーンやアクション場面は一度もでてこない人間ドラマだが、滋味溢れる佳作だと感じる。

余談雑談 2015年1月24日
先週、このメルマガを出す寸前に声優の大塚周夫の訃報を知った。丁度、扱った先品が「あの高地を取れ」(1953)で何というタイミングかと思ったが、流石にここで書くには間に合わなかった。 昔のテレビで、各局、毎晩のように放送されていた洋画劇場は吹