2月も終わりだ。俗に「ニッパチ枯れ」と言い、2月と8月は景気が悪い。
ご多聞に漏れず、実家のたばこ屋も2月は売り上げが少なかった。というよりも、喫煙者自体が減少しているのだろう。
そもそも、下町の路地にあり、たばこ屋としては、祖父母の代から40年以上も営んでいる。当然、地元の喫煙者が多いのだが、古くからの常連は、皆、高齢者になった。
鬼籍に入ったり、医者に止められたと様々な理由で減少している次第である。
そんな中、毎日、店番をしていて、昨今、特に感じるのは、タバコではなく、ライターを買う客が増加したこと。ひとつ100円だが、妙に売れているのだ。
自分の記憶では、喫茶店やスナックが宣伝の意味で、店名入りのものを無料配布していたイメージが強い。喫煙者も減ったが、実家の周囲も喫茶店やスナックが、驚くほど無くなった。
もしくは飲食店が残っていても、経費もかかるし、配布を嬉しがらない客も増加したのだろうか。
更に、数年前に子供によるライターの火遊びが原因の出火が多く、安全装置付ライターしか販売不可能になった。これも高齢喫煙者には面倒なこと。
昔のような簡単に着火するものはないかとも尋かれる。しかし、無料配布するものは別だが、販売用となると存在しないのだ。ブツブツと文句を言いつつ買っていく。
そんな折、ひとりの老人が発した言葉が強烈に印象に残った。
「マッチはないか」驚いて老人を見てしまった。完全に過去の遺物であろう。それでも、その老人は、今度仕入れてもらえるかと言った。
確かに宣伝用ライターの前は、マッチ。こだわったデザインのものもあり、コレクターもいたし、ラベルの写真集もあったように思う。
子供時代、自動着火のガスコンロはなく、台所には徳用マッチの大箱があった。ガスを多く出し過ぎてマッチをこすると小爆発して、恐ろしかった記憶もある。
それでも、地方の旅館などでは、まだ、夕食時の小なべに使用するため、マッチの文化が残っているのだろうか。
まあ、そのうち煙草さえ過去の遺物か。その昔、ハンフリー・ボガードの煙草の持ち方を真似ようとして、結局、年季が必要だと痛感したが、今や、そんな真似をしても、却って、煙たがられるだけだよな。