スタッフ
監督:ラルフ・トーマス
制作:ベティ・E・ボックス
脚本:リチャード・メイソン
撮影:アーネスト・スチュワード
音楽:アンジェロ・ラヴァニーノ
キャスト
クィン中尉 / ダーク・ボガード
鈴木花子 / 谷洋子
ファニック少佐 / ロナルド・ルイス
マンロー中尉 / ジョン・フレイザー
准将 / アンソニー・ブッシェル
中村中尉 / 大川平八郎
イツミさん / 池田正
森伍長 / 松江陽一
医師 / ドナルド・プレゼンス
日本公開: 1958年
製作国: イギリス アーサー・ランク作品
配給: 東和
あらすじとコメント
前回の「戦艦バウンティ」(1962)は反乱劇がメインのドラマであったが、個人的には南国女性との恋模様の方が印象深かった。なので、今回も前回同様、英国軍人である白人男性と別人種女性の恋模様を描いた作品にしてみた。その相手は日本人女性。舞台は第二次大戦下。複雑な心情に陥る作品でもある。
インド、デリー1943年の戦争が激化していた頃。イギリス空軍のクィン中尉(ダーク・ボガード)は、敗走中に怪我をして、療養生活を余儀なくされた。回復すると、すぐに日本軍捕虜の情報を得るべく、日本語を学習せよとの命令が下った。
かつての同僚もいて心強かったが、学校には様々な将校が招集されていた。そこの校長は、長年日本在住経験のある准将が務めていた。まったく予備知識もなく授業が始まったが、あまりにも英語とは違う文法や表現のため困惑するクィンたち。
翌日、新たな教員が着任してきた。戦争に反対した父親とイギリスに亡命した鈴木花子(谷洋子)である。イギリス女性とは全く違う不思議な雰囲気に引き寄せられるクィン。
そんな彼は、教わった日本語の「寂しい」から取って、『サビー』という渾名を密かに付けて・・・
戦時下で繰り広げられる、波乱万丈な展開を見せるメロドラマ。
突然、敵国の言語習得を命じられる空軍将校。教官は見たこともない人種の美人。
すぐに二人は恋に落ちるが、そこからストーリィは、主人公が急遽、戦場に駆りだされて捕虜になったり、ヒロインは、妙に影がある表情を浮かべるようになり、何やら原因がありそうだとか、悲劇性を伴って転がっていく内容。
原作は戦争中にイギリス空軍と情報部に勤務した経験を元に書き下ろしたリチャード・メイソンが1946年に発表したもの。タイトルも同じで、日本の俳句にある『この花は、かたく折るなという立札も、読めぬ風には是非もなし』から取られている。
本来は、この原作を映画化しようとしたのは、かの名匠デヴィッド・リーンで、主演は岸恵子だった。
もし、リーンが作っていたら、全く違う毛色の作品に仕上がったに違いないが、それこそ『是非もなし』である。
それでも、凡庸な作品ばかりを輩出したラルフ・トーマス監督の中では、丁寧に作られていて好感が持てた。
何によりもヒロインを演じた谷洋子が印象的である。完全な日本人として、堂々と外国映画のヒロインを演じたのだから。ただ、どうにも中国の女優チャン・ツィイーに重なってしまうのが難点。
それと、憎たらしい日本軍将校を演じたヘンリー・大川こと大川平八郎の存在も、「戦場にかける橋」(1957)の早川雪州ほどではないが、日本軍人としての威厳を保ち、解りやすい英語発音の演技で微笑んでしまった。
大川平八郎は、日本では「ゴジラ」(1954)などに出演はしているものの、有名俳優ではない。それでも、本作では谷洋子同様、日本人としての気品と誇りを感じさせる。
他の日本兵も、ほぼ、日本人系が演じていて、劇中に聞こえる日本語も違和感がない。ただ、どうしても、日本軍は野蛮で暴力的と描かれるので、複雑な心情にはなる。
異国情緒溢れるインドという場所で、繰り広げられる戦闘シーンと恋模様は、時代性を感じさせはするが、中々どうして、という作品。