石垣島から戻って一週間。すっかり秋めいている東京だが、未だに振り返ると、そこに八重山諸島がある気分だ。
何よりも好天に恵まれ続けたことが良い印象を強くしている。ただ、自分が離島した後に襲来した台風は、与那国島などに甚大な被害を出したし、その余波が全国にまで及んだ。
石垣島は二度目だったが、今回は離島巡りで廻った各島の違いに興味を持った。共通するのは美し過ぎる海。しかも島によって全部色彩や印象が違う。
特に気に入ったのが波照間島にある「ニシの浜ビーチ」。ツアー参加だったので、現地でバスとガイドが付き、色々と説明してくれて勉強にもなった。
ガイドが言うには、たまに「西の浜」と記載されているガイド本を見かけるが、あれは間違いで沖縄方言では「ニシ」は「北」を指すと。つまり「北の浜ビーチ」なのだと。
そんな沖縄では「東西南北」を独特な言い方をするとも教えてくれた。北は「ニシ」、南は「フェー」、東が「アガリ」にして、西は「イリ」。成程、だから「西表島」は「にしおもてじま」でなく「いりおもて」なのだな。
その西表島にも行ったし、竹富島にも行った。ただ、竹富島は自分の地元と同じように観光地化しており、島にいたのは、ほぼ100パーセント観光客にして、物価も高い。なので、そこでは昼食を抜いた。まあ、あのクラスのホテルにしては美味い朝食を多めに食べていたからなのであるが。
そんな離島巡りの中で、波照間島が一番好きになった。
『日本の最南端』の島で、信号機はひとつもなく、コンビニもない。本当に観光地化されていない素朴さが際立ち、沖縄の原風景を留めている。学校、郵便局、泡盛製造所など、全部が日本最南端ばかりを謳い文句にしているのが微笑ましいし、小高い丘の上にある「日本最南端の碑」からは海しか見えない。
ただし、波照間島は、多少の波や風でも欠航しやすい場所でもある。幸運にも自分は上陸できたが、翌日から数日後の台風接近のため、欠航であった。まさに最後の一日で上陸でき、息が止まるほどの好天の下、空と海の違う清々しさと神々しさに満ちた『青』を堪能した。
そんな島で暮らす人間は、常に自然と共生しなければならないと考えると、人間本来の逞しさを感じる。
そして石垣島最後の晩は、偶然、ホテル直近の公園で、八重山民謡だけを謳う「とぅばらーま大会」に遭遇した。月明かりの中、住民たちが芝の地面に座り込み、透き通る歌声に酔っていた。
昔の国営ラジオ放送のような司会で、方言の歌詞を数小節だけ標準語に訳し、静かに曲が始まる。
男女混合三人一組で唄うのだが、プロではなく、地元の歌自慢たちが、切々と三線と横笛で、恋愛模様を奏でる。それぞれの参加者は、当然、声質が違ったり、男女歌い手が変わったり。
一言も歌詞が分らないまま、のんびりと哀切のメロディーに乗せて響いてくる曲は、どれもまったく別な印象を受け、しみじみと心に沁みた。
しかも初めて、これだけ多くの沖縄の歌を生で聞き、陶酔しきり。
何から何まで幸運尽くしの旅であった。なので、あまりにも上手く行き過ぎて不安を感じるのが11月の「オジサン三人旅」。
数年分の沖縄での幸運を使い果たしたのではないかと。なので、今回の旅のことは他の二人には黙っておこうっと。