スタッフ
監督:ジョナサン・デミ
製作:エドワード・サクソン、ケネス・ウット、ロン・ボズマン
脚本:テド・タリー
撮影:タク・フジモト
音楽:ハワード・ショア
キャスト
クラリス / ジョディ・フォスター
レクター / アンソニー・ホプキンス
クロフォード / スコット・グレン
バッファロー・ビル / テッド・レヴィン
マップ / ケイシー・レモンズ
チルトン医師 / アンソニー・ヒールド
マーティン上院議員 / ダイアン・ベイカー
キャサリン / ブルック・スミス
FBI長官 / ロジャー・コーマン
日本公開: 1991年
製作国: アメリカ ストロング・ハート、デミ・プロ作品
配給: ワーナー・ブラザース
あらすじとコメント
前回の「怒りの山河」(1976)では、当時、新人ながら手堅い手腕を発揮したジョナサン・デミ監督。そんな彼の代表作を選んでみた。世界中でヒットし、数本の続編も作られたサイコ・スリラーの佳作。
アメリカ、ヴァージニアFBIの訓練生クラリス(ジョディ・フォスター)は、大学時代の恩師であり、主任捜査官でもあるクロフォード(スコット・グレン)に呼びだされた。心理学と犯罪学を専攻していた彼女に現在、収監されている連続殺人犯のプロファイリング調査協力への要請だった。対象者は、殺害後に被害者の肉を食べた元精神科医レクター(アンソニー・ホプキンス)。
すぐに収監先へ飛ぶクラリス。何故、自分なのかと自問し、現在も未解決であり、数日前にも犠牲者がでた、殺害後に皮膚を切り取る猟奇連続殺人を関連付ける。
収監先で担当医から、レクターがどれほど恐ろしいタイプかを聞かされ、要注意事項を聞いた彼女は、遂に対面することになるが・・・
連続殺人鬼たちと対峙する新米訓練生の成長と活躍を描く佳作。
美人で頭脳明晰。将来を嘱望される主人公の訓練生。現在、捜査に行き詰っている猟奇連続殺人の手掛かりを掴むべく、これまた人間の心理を知り尽くした人肉喰いの殺人鬼と面会させる上司。
ストーリィとしては、主人公とレクター博士の異様性を加速させていく面会と、新たな連続殺人事件を匂わせる有力上院議員の娘が絡む行方不明事件を追うFBIの捜査とが両面進行していく。
実に巧妙な展開であり、見事な画面のカッティングを絶妙のリズム感で紡ぐ編集によるミスリーディングや、ヒロインの秘めた過去をあぶりだすレクターとのやり取りなど、異常性と異様性を際立せるサスペンスが数珠繋ぎに繰りだされてくる。
そして、「音」の使用法も特筆に値する。サイレントではない映画表現として細心の注意を払ったと感じさせる。
ただし、これは別な観点からいえば、『強調された音』は、あざとさを感じさせる手法でもあるのだが、ただ、全編を通して、内容からしても、ハッタリ的に起用されるので、ヒッチコックの派生型としての作劇と受け取れる。
幾つか、やり過ぎ感もあるものの、新たな世界観を構築している成功タイプとも感じた。
中でも、最もサスペンスの巨匠ヒッチ的な表現と感じたのは、性交渉を直感させる男女の手の動きである。
それが二度でてくる。双方とも片方はヒロインであり、もう一方の一人目はレクターで、二人目はヒロインの上司。
その前に、男たちの『それ』を喚起させる言動が描かれているので、こちらは鳥肌が立つ寸法である。ある意味、ヒッチコック死後、一、二を争うエロティックな表現法であると。
その『手』の表現方法は、性描写が緩和された時代だからこそ、逆に新鮮さを感じた。
しかも、その手法はデミ監督を見いだした名プロデューサー兼監督のロジャー・コーマンはほとんど用いることのなかった作劇法でもある。
つまり、独自路線を確立したと言わんばかりなのである。
そして、そのコーマン自身をFBI長官役で起用したり、「怒りの山河」で、監督同様見いだされたスコット・グレンを登用し、ファン心理をくすぐる。
それでいて、多くの映画を見慣れきた観客からすると、先読みや表現方法に妙味を感じさせないところも、コーマン門下生としての影響を感じる。
それらを踏まえた上でも、本作は堂々とした傑作であると位置付ける。