実に、心が狭くなったものだ。
十数年前からか、有名観光地である地元で人力車が矢鱈と増え、イケメンやお笑い芸人なども車を牽いているからか、若い女性やら外国人とかが利用している。
実は以前から、若干傍若無人傾向でイライラすることが多かった。車夫は時給の他に歩合給らしく、誰彼構わず声を掛け、まるでナンパのように軽い口調で話しかけるし、テキトーな英語でバカにされないかと心配にもなる。
兎に角、神出鬼没で、走行禁止区域以外ではどこでも見かける。長年快く思っていないからか、どうも常に邪魔くさいと感じていた。
それが先日の夕方、タバコ屋を母に頼み、ちょいと早目に帰宅しようと、旧称「六区興行街」を歩いていたときのこと。
人力車の横を通り過ぎようとしたら、現在「驚安の殿堂」になった建物を指し、浅草で一番古い映画館に似せて作ったビルで、以前は『電気館』という映画館だったと得意げに教えていた。
嘘を付け、と怒鳴りたくなった。地元に生まれ育った人間としては、百歩譲って、人力車は許すとしても嘘はいけないだろう。
似せて作った場所にあったのは『大勝館』であり、『電気館』があったのは別な場所で、しかも浅草で一番古い映画館は『日本館』だ。
何から何まで間違って、さも知ったかぶりして、観光客に嘘を教えている。それで金を取るのかよ。
こと「地元」と「映画」に関しては譲れない一線がある。一瞬、立ち止まったが、我慢した。それが「大人の対応」だからではない。
そんな車夫に、誰が正しい情報をタダで教えてやるものかと思ったのだ。
だから、心が狭くなったなと感じた次第。このまま 歳を重ねると、本当に嫌なジジイに一直線か。
でも、それはそれで自己責任なんだよな。