ワンダーランド駅で – NEXT STOP, WONDERLAND(1998年)

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スタッフ
監督:ブラッド・アンダーソン
製作:ミッチェル・ロビンス
脚本:ブラッド・アンダーソン、リン・ヴァウス
撮影:ウタ・ブリーゼヴィッツ
音楽:クラウディオ・ラガッツィ

キャスト
エリン / ホープ・ディヴィス
モンテイロ / アラン・ゲルファン
フランク / ヴィクター・アルゴ
エリック / ジョン・ベンジャミン
ジュリー / カーラ・ブオノ
ブレッティ / ラリー・ギラード Jr
ショーン / フィリップ・シーモア・ホフマン
ロリー / ジェイソン・ルイス
ソーンバック / ロジャー・リース

日本公開: 1999年
製作国: アメリカ ミラマックス作品
配給: アスミック・エース


あらすじとコメント

しばらく中年男女がメインの作品を続けてきた。ここいらで、一息ついて若者たちの恋愛ドラマにしてみる。若手のじれったい恋愛ドラマというジャンルは数え切れぬほど作られてきたが、本作初見の時、未だ、この手があったかと、膝を叩いた佳作。

アメリカ、ボストン病院の小児病棟勤務の看護師エリン(ホープ・ディヴィス)は、環境活動家の恋人ショーン(フィリップ・シーモア・ホフマン)に、突然、別れを告げられて意気消沈。仕事もプライベートも上手くいかず、どこか人生に絶望感を覚えていた。

ボランティア・ダイバーとして、正社員になることを夢見ながら水族館で働くモンテイロ(アラン・ゲルファント)も、恋人もおらず淡々と人生を過ごしていた。

ある日、エリンの元に母親から電話が入る。明日、帰国するから空港まで迎えに来て、と。翌日、朝から地下鉄で向かったエリンだが、あまりの混雑に気分が悪くなり、途中下車してしまう。

なんだか、人生に疲れていると感じながら、気分を落ち着かせるために水族館に入った・・・

着想勝利のお洒落で素敵な恋愛ドラマの佳作。

看護師のヒロイン、水族館勤務の男性。メインはこの二人。要は、この二人がどうなるかを描く作品。

それこそ幾百と製作されてきた「恋愛映画」の系譜ながら、驚いたのはその進行。

交互に、主役二人の現状が描かれ、互いに恋人が欲しいからと出会い系に登録したり、友人に紹介してもらったりする。

中には共通の仲間もいて、こちらは、いつ二人が知り合うのだろうかとひたすら待たされる。それなのに、何度か街中やパーティーですれちがったりするものの、お互いが知り合ってないので、単純にすれちがうだけ。

そんな進行で、こちらをやきもきさせつつ、それぞれが別な相手と危うくなったりするから、まるで人生そのもののようで面白い。

つまり、二人は同じ町に住みながら、まったく出会わないまま進行していく。ただ、それまでに描かれてきた内容から、こちらは出会ったら、二人は完全に恋に落ちると思わせるので、それが一体いつの段階なのかと、身を乗りだしてしまった。

要は、運命の相手とは、赤い糸で結ばれているという『赤い糸』の都市伝説。ただし、あるとしても、行き着くまでにはかなり、こんがらがる出会いと別れがあるというのが人生なのだと。そういう意味では、「夢見る夢子さん」的憧れの映像化である。

ありがちで、幾千と制作された内容。しかし、それまでは主人公二人が出会ってから、紆余曲折があり、ハッピーエンドだったり、悲恋モノに結実していった。

本作のヒロインは、看護師という献身的奉仕精神を持つ人間であるから、アメリカ人でありながら、強い自己主張をしないタイプなのが、日本人にも受け入れられやすいかもしれぬ。

流される受動的タイプ。そして男も同じようなタイプ。そしてヒロインは背が高く、一方の男は背が低い。

何とも、見た目もアンバランス。とはいっても二人は知り合っていない。解っているのは、観ているこちら側だけ。表立って身長に関する場面はでてこないが、恐らく二人とも、気にはしてきた人生だろう。

だから、お互いが出会うまでの、それぞれの曲折を見せつけられながら、「類は友を呼ぶ」的恋愛に発展するだろうなと思わせるのだ。

タイトルにある「ワンダーランド駅」は、全米一古い低下鉄で、ボストンに実在する駅名である。

「不思議の国のアリス」の『不思議の国』という駅名。そして、その隣駅が「水族館前」。

男が勤めている場所であり、思わずニヤニヤしてしまう設定。しかも、真冬の薄ら寒さを感じさせる背景に流れるのは、全編ボサノヴァという正反対の曲調。しかし、これが絶妙にマッチするからイヤらしいのである。

様々な価値観を持つ雑多な民族の国であることを描きながら、だからこそ、「個人」は、孤独に陥りやすいと思わせる。

何ともお洒落で、アメリカ人が描く「男と女」(1966)とでも言えるような作劇。手持ちカメラを多用し、人間の情緒の不安定さを強調させ、敢えてリズム感を外し、セオリーを無視する編集やカットで、こちらを惑わせる。

別な本命候補が登場してきたり、冷や冷やさせる場面もあり、それでいて、本当に二人は、どうやって、いつ知り合うのかと、スリリングさまで伝えてくる内容に、妙に親近感と人生の切なさと、ささやかな希望を感じさせる佳作。

余談雑談 2016年4月9日
天気予報が若干外れ、雨や風に耐え自室眼下の桜はまだ少し残っている。だが、ひとりの友人が散った。 15年以上も前、祖父が始めた会社を清算し、映画ライターになれそうな時期。ものは試しとネットの映画サイトに好きな作品の投稿をしてみた。 しばらくし