スタッフ
監督:ロベール・アンリコ
製作:ピエール・カロ
脚本:パスカル・ジャルダン
撮影:エチエンヌ・ベッケル
音楽:フランソワ・ドルーベ
キャスト
ダンデュ / フィリップ・ノワレ
クララ / ロミー・シュナイダー
フランソワ / ジャン・ブイーズ
大尉 / ヨハヒム・ハンセン
ダンデュの母親 / マドリーヌ・オズレー
ミューラー軍医 / カール・ミカエル・フォーグラー
フランス民兵将校 / ジャン・ピエール・シシフェ
ドイツ兵1 / アントワーヌ・サン・ジョン
中尉 / ロバート・ホフマン
日本公開: 1976年
製作国: フランス レ・アルティステ・アソシエ作品
配給: ユナイト
あらすじとコメント
フィリップ・ノワレが、田舎で生活する男を演じた作品で繋げた。だが、コメディではなく、内容がまったく異なる。戦時下の孤独な抗戦を、いかにもロベール・アンリコらしいタッチで描いた作品。
フランス、南西部モントーバン1944年6月、連合軍がノルマンディーに上陸し、フランス開放も近付いて来たころ。
町の市民病院に勤務する医師ダンディユ(フィリップ・ノワレ)は、ドイツ軍管理の下、連日激務に追われていた。そんな彼の憩いは最愛の妻クララ(ロミー・シュナイダー)と前妻との間に儲けた娘と過ごす時間であった。だが、連合軍の進行につれドイツ軍の動きも慌しくなってきたので、所有する田舎の古城に妻子を疎開させることにした。
激務に追われながら孤独を噛み締めるダンディユ。五日後、やっと一息ついた彼は、古城に向かうが・・・
妻子を虐殺された男の強烈なる復讐を描くアクション・ドラマ。
撤退の気配を見せるドイツ軍の姿に、混乱を予知し、村から家族を避難させた主人公の医師。だが、それが凶とでて、娘は射殺され、妻は火炎放射器で焼き殺されてしまう。更に、近隣の村の老若男女も皆殺しされた現場に遭遇する主人公。
相手は敗軍のナチスの残党たちで、自分の古城に居座り、やけ酒を浴び撤退の機をうかがっている。
それまで命を救うことに全力を上げて来た医師が、武装した9人の敵にたった一人で立ち向かう展開となる。
武器は父から受け継いだ狩猟用散弾銃のみ。ただし、壊れかけた古城は知り尽くしており、秘密の抜け穴や、警察の取調室よろしくマジック・ミラー越しの秘密部屋があったりする。
その利を生かして、一人、また一人と殺害して行く。そこに愛国心など存在せず、あくまで私怨のためだ。
妻子を殺害した敵には、まったくもって情け容赦のない鬼になる。しかも、途中で町民のレジスタンスが訪れても、何もないと追い返して、本当にひとりだけで殺害して行くのだ。
しかも、次々と血祭りに上げていく方法も様々で、かなりそこに砕身していると感じた。
要は、かなり異質な作品。ただし、監督は、冒険人間ドラマの秀作「冒険者たち」(1967)を輩出したロベール・アンリコである。音楽も名コンビのフランソワ・ドルーべ。
本作は「冒険者たち」で繰り広げられたクライマックスでの海上に浮かぶ古城要塞での戦いを進化させた作品ともいえる。
ただし、アンリコ監督は、クールにキレた男のアクションをハードに描きながら、どこか詩情を漂わせる風景の中で進行させるという、相反するタッチを得意とする御仁。
本作も然り。だが、その相反する雰囲気にこそ、孤独な男らの絶望と深い愛情を際立たせて、こちらの心に極北の風を吹かせるのだ。
ただ、本作は思い出の品や家族が映った映像などから、主人公の心情にシフトし何度も回想シーンが挿入されるので、ぶつ切り感も際立ち、どこか説明的場面も多いと感じる。
それでも、平和的で人命を救い続けてきた医師が真逆の復讐鬼となる展開は、観客が付いていけない設定でもあり、素直に感情移入し続けられないジレンマをも喚起させる。
だからこそ、何度も描かれる最愛の家族との回想シーンで、主人公同様、こちらの気持ちも継続させようとしているのかもしれない。
カタルシスの昇華しない、いかにもフランス映画らしい、複雑な心境に追い込まれる作品。