スタッフ
監督:ルイ・マル
製作:イレーネ・ルリシュ
脚本:レイモン・クノー
撮影:アンリ・レイシ
音楽:フィオレンツォ・カルピ
キャスト
ザジ / カトリーヌ・ドモンジョ
ガブリエル / フィリップ・ノワレ
チュランド / ユベール・デシャン
シャルル / アントワーヌ・ロプロ
マドー / アニー・フラテリーニ
アルベルチーヌ / カルラ・マルリエ
トゥルースカイヨン / ヴィットリオ・ガブリオーリ
フェドール / ニコラス・バターユ
グリドー / ジャック・デュフロ
日本公開: 1961年
製作国: フランス コンソリチューム・パテ作品
配給: 映配
あらすじとコメント
フィリップ・ノワレ出演作品。今回は田舎ではなく、花の都パリが舞台。街の魅力を存分に捉えるロケーションも楽しい、何ともモダンで、ポップでキッチュなファンタジー的作品。
フランス、パリ田舎から母親に連れられて、初めてパリにでてきた10歳になる娘のザジ(カトリーヌ・ドモンジョ)。だが、母親は弟のガブリエル(フィリップ・ノワレ)にザジを預けると、自分はさっさと駅に迎えに来ていた男と消えてしまう。
二日後の朝の列車で帰るので、それまでパリを満喫させようと思うガブリエルだったが、ザジが興味があるのは地下鉄に乗ること。
ところが不運にもスト決行中で不可能。気分を害したザジは、ガブリエル夫婦のアパートを飛びだし、勝手にパリの街を徘徊し始める。
そんな彼女に好奇の目で近付いてくる紳士然とした男トゥルースカイヨン(ヴィットリオ・カプリオーリ)。
ところがその男とは・・・
生意気な小娘と突拍子もない大人たちが繰り広げるファンタジー・コメディの佳作。
思春期一歩手前の少女。どうやら芸人らしいが、何となく男色家っぽい叔父。美人だが、とても夫婦には見えない叔父の妻。仮面夫婦なのか二刀流なのか、兎に角、普通ではない印象。
夫妻が住むアパートの大家にしてカフェを営む男、叔父の友人で、妙に同性愛の恋人かと思わせるタクシー運転手。
そして小児性愛者っぽく登場しながら刑事だと言い張る珍妙な男などが、入り乱れてパリのあちらこちらを引っ掻き回しながらの大騒動を描いていく。
コマ落としやスローモーション、漫画や特撮、そしてシュールな展開など、当時としては飛びっきりぶっ飛んだ作品である。
何といっても驚くのは、本作の監督がルイ・マルであるということ。マルは、弱冠25歳で監督したサスペンス映画の傑作「死刑台のエレベーター」(1957)で日本デビューし、二作目「恋人たち」(1958)では不倫愛を陶酔的に描いた。
そんな彼が28歳の時に放ったのが本作。当時、あまりにも前二作とティストが違うので評論家も観客も相当に驚いたと言われている。
確かに全く違う方向性であるし、ここまである意味、ぶっ壊れたのかと思わせる変更。
しかし、映画表現としては抜群に面白いから厄介なのだ。
事実、本作に影響を受けた作品は多く、イギリスのリチャード・レスターやパクリの天才ロジャー・コーマンなどは、本作以降に『サイケ・ブーム』がやって来るので、随分と先見性があるとも感じるし、割と昨今では、本作同様、やはりパリのカフェを舞台にした「アメリ」(2001)や、日本の中島哲也作品群にも、本作の影響が見受けられる。
子供の視点から感じる大人たちの不思議な言動を、そのまま描いていき、更に子供らしいイマジネーションで画面を爆発させる。
それでいて思春期的背伸び感で、単純な『可愛らしさ』を排除する。
実物のパリがワンダーランド的に見え、まるで「ニセモノ」的に描かれる一方で、憧れるパリジャンを小馬鹿にして、これぞホンモノのパリジャンの戯画化と思わせる。
つまり一筋縄ではいかない設定と展開。何ともフランス人らしい斜に構えた視点を散りばめながら、結局は『子供』であったというオチを付ける。
1時間半という尺の中で、何とも夢物語というか、漫画的というか、楽しみながらパリ観光も出来る印象深い佳作。