パリ空港の人々 – TOMBES DU CIEL(1993年)

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スタッフ
監督:フィリプ・リオレ
製作:ジル・ルグラン、フレドリック・ブリリョン
脚本:フィリップ・リオレ
撮影:ティエリー・アルボガスト
音楽:ジェフ・コーエン

キャスト
コンティ / ジャン・ロシュフォール
スサーナ / マリア・バルデス
セルジュ / ティッキー・オルガド
アンジェラ / ローラ・デル・ソル
ゾラ / イスマイラ・メイデ
ナック / ソティギ・クヤテ
アルマン / ジャン・ルイ・リシャール
書店主 / ホセ・アーダー
警察詰所長 / ピエール・ラプラス

日本公開: 1995年
製作国: フランス エピテ、フィルマニア作品
配給: アルシネテラン


あらすじとコメント

前回は憧れのパリにでて来た少女の騒動を描いた作品だった。今回はアフリカの少年が夢見るパリの話。とはいっても特殊な環境に暮らす少年で、何ともハートウォーミングな良作。

フランス、パリ12月30日の晩のシャルル・ド・ゴール空港にカナダからひとりの男が到着した。しかし、荷物もなく、靴も履いておらず、まったくの着の身着のまま状態。

彼はカナダとフランスの二重国籍を持つコンティ(ジャン・ロシュフォール)で、入国審査職員に、出発地の空港待合室で貴重品が入ったバッグと靴とコートを盗まれたと告げた。ここで妻スサーナ(マリア・パレデス)と待ち合わせをしているので、取り敢えず上機したと。しかし、身分を証明するものがなければ入国出来るはずもない。カナダに存在証明を問い合わせるので、トランジット・スペースで待機するようにと言われてしまう。

妻も夫が出てこないことに不安を覚え、空港内を駆けずり回るが、何が起きているのか知る由もない。

八方塞のコンティの元に、ゾラエミル(イズマイラ・メイテ)というアフリカ人少年が、食事があるよと声を掛けてきた・・・

空港からでられない訳アリ人間たちを描くハートフル・コメディの佳作。

旅券や財布の盗難からフランスに入国できない主人公。そんな彼は、二重国籍を持ちながら現在はローマ在住。しかも妻はスペイン人で、と税関職員を戸惑わせる厄介な男。

妻もラテン系らしく、あちらこちらでヒステリーを起こすタイプ。

そんな主人公に声を掛けるのが、単身ギニアから来て、もう十日も父親の出迎えを待っているという少年。

当然、彼も入国不可状態。そんな少年は立入禁止エリアにある小部屋に滞在していて、仲間もいると。

その仲間というのが、傭兵で世界を転戦してきたと嘯くが、どうにも切れ者には見えない男。フランス語を一切理解できないまま、もう9年近くそこにいるエチオピア人らしい男性、そしてコロンビア人だが国籍を剥奪され、身分を証明できないためにそこに暮らす女性がいた。

どうにも問題アリな人々ばかりである。そんな人物たちが、どこにも行けず、どこでもない空間に暮らしている。

主人公は翌朝には入国できると多寡を括っているが、そうは問屋が卸さないのだ。

偶然、妻とカウンター越しに会話が出来たので、妻は妻として空港内のカプセルホテルに陣取り、警察などに掛け合っていくから、またもや、やこしくなるというコメディ。

空港からでられないという設定と聞くとスピルバーグとトム・ハンクスの「ターミナル」(2004)をイメージする人が多いだろうが、個人的には本作に軍配を挙げる。

それは、主人公以外の人間ドラマが良く出来ているから。

問題を抱え、行くも引くも出来ない人間たちが、空港内でしぶとく生活している姿が面白いし、それぞれが抱える闇も薄っすらと浮かび上がってくるから。

奔走と翻弄が交互に描かれるコメディと思って見ていくと、後半から転調していく。

大晦日の晩に全員が小部屋で夕食を摂った後、少年がセーヌ河の遊覧船に乗るのが夢という話から、主人公がテーブルの上にあるカップや食器などで、ノートルダム寺院や凱旋門とパリの地図を再現していくシークエンスは素晴らしい。

全員が夢見ながら、主人公以外は行ったことがないパリ市街に、絶望や羨望を重ねていくのだ。

距離的には大して遠くない場所ながら、世界の果てほどの距離があると感じている風情が涙を誘う。

そこから更に主人公は無鉄砲な提案をしていく。

確かに、常識では完全にアウトだが、そこは映画。しかもコメディとしてスタートしているので、強引さは感じるが、何ともロマンティックで、心温まる最高の新年サプライズなのである。

アメリカとは違う移民の国フランスならではの発想と展開。

おいおい、そんなラストで大丈夫かよと、苦笑いを浮かべるが、それでも、チャーミングでハートフルな内容に酔えるであろう良作。

余談雑談 2016年7月16日
相変わらず中途半端な梅雨の東京。しかも、晴れるとあきれるほど高温になったりする。 そういうときは、何か精の付くものを食べたくなるのだが、流石に「土用の丑」が近いとはいえ、鰻というわけにはいかない。 ふと思い浮かぶのが、何故か「とんかつ」。し