スタッフ
監督:キャロル・リード
製作:キャロル・リード
脚本:グレアム・グリーン
撮影:ジョルジュ・ベリナール
音楽:ウィリアム・オルウィン
キャスト
ベインズ / ラルフ・リチャードソン
ジュリー / ミシェル・モルガン
ベインズ夫人 / ソニア・ドレスデール
フィリぺ / ボビー・ヘンリー
クロウ警部 / デニス・オデア
エイムス刑事 / ジャック・ホーキンス
フェントン医師 / ウォルター・フィッツジェラルド
一等書記官 / カレル・ステファネク
ハート刑事 / バーナード・リー
日本公開: 1953年
製作国: イギリス ロンドン・フィルム作品
配給: 東和
あらすじとコメント
少年が大人の世界を垣間見る。前回は晩餐会での出来事を描いた作品であった。今回は、それぞれの小さな嘘からとんでもない出来事に発展していく、いかにも往年のイギリ映画らしい名匠キャロル・リードが巧みに綴ったサスペンスの佳作を選んだ。
イギリス、ロンドン某国大使館に勤務する執事頭ヘインズ(ラルフ・リチャードソン)は、いつもテキパキと仕事をこなす優秀な男であった。そんな彼に憧れ、いつも付き纏うように生活する大使のひとり息子フィリぺ(ボビー・ヘンリー)。
とある週末、やっと退院が決まった母親を迎えに行くべく父親が御連れを引き連れて泊まりがけで出掛けた。一人残されたフィリぺは、これで思う存分ヘインズに遊んでもらえると意気揚々だ。ところが、いつも何かと口うるさいヘインズ夫人が口を挟んでくる。鬱陶しく感じるフィリぺだが、自室の窓から、ヘインズが出掛ける姿を見て、思わず夫人に隠れて後を追った。
やっと追いついたが、彼はカフェの奥の席で若いジュリー(ミシュエル・モルガン)と、何やら深刻な話をしていた・・・
少年の未熟さにより、大人たちに翻弄されつつも、逆に自らも翻弄してしまうサスペンスフルな佳作。
父親は外交官で異国に住む少年。しかも母親は入院中。当然、同年代の友達は皆無で唯一の友達は小さな蛇。
そんな少年のあこがれの対象である主人公は、同僚のタイピストと不倫の真っ最中。密会現場を見られた挙句、姪だと嘘を付き、口外せぬよう言い含める。
これは男同士の約束だと嬉しく感じる少年だが、所詮は子供。しかも不倫を勘繰る主人公の奥さんが、かなり嫌味な女で、仕事場も一緒。
そして大人たちが身勝手に少年を利用しようとしたことから、どんどん大人たちの化けの皮が剥がれていくストーリィ。
先ず、不倫密会現場を見られた主人公が、真の関係を悟られまいと大人の事情を遠回しに会話する場面からして、ゾクゾクさせられる。
観ている側は、すべて合点がいくが、少年は純真。やがて、それが少年に災いとなって降りかかってくるだろうと想像させつつ、ヒステリックな本妻が、今度はどのように絡んでくるのか。
しかも、その前に本妻が少年を快く思っていないという伏線を描いているから、サスペンスが盛り上がる。
少年のいじらしさが、いつ、何の拍子でポロりと真実を暴露してしまうかと推理させつつ、本妻の策略で週末、主人公と愛人、そして少年だけというシチュエーションになり、そこからとんでもない事件が起きる。
観客側は真実を事前に知るが、カギを握るのが、またもや少年。
それまでのいきさつから少年の思い込みが、更にサスペンスを加速させる。
警察まで絡んで来て、大人たちの一寸した嘘から、全員が真綿で首を絞められていくのである。
こうなるとイギリス映画の真骨頂。白黒画面で思わせ振りなカットや、恐怖を煽る音楽で、実に巧妙にサスペンスを盛り上げていく。
絶頂期のキャロル・リード演出が冴え、流石、黄金時代のイギリス製サスペンスとにんまりした。
大した内容ではないが、テクニックでこれほど上手く見せるとは、幸せな時代だったのだろうと想像させる佳作。