肉体の悪魔 – LE DIABLE AU CORPS(1947年)

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スタッフ
監督:クロード・オータン・ララ
製作:ポール・グレッツ
脚本:ジャン・オーランシュ、ピエール・ボスト
撮影:ミシェル・ケルベ
音楽:ルネ・クロエレック

キャスト
マルト / ミシュリーヌ・プレール
ジョーベール / ジェラール・フィリップ
エドアール / ジャン・ドピュクール
マルトの母 / ドイーズ・グレイ
マラン / パラオ
ラコンプ / ジャン・ヴァラス
ルネ / フランソワ・ミッシェル
レストラン支配人 / リシャール・フランクール
酒場の将校 / ジャック・タチ

日本公開: 1952年
製作国: フランス トランス・コンチネンタル・フィルム作品
配給: 東和


あらすじとコメント

前回は「学生運動」の中で繰り広げられる恋愛模様の話だった。今回は第一次大戦という戦時下。そこにも当然、男女がいて、平時ではないからこその不安感が横たわる恋愛模様を描く秀作。

フランス、パリ近郊戦争で、自分の通う学校が臨時病院併設となってしまった17歳のジョーベール(ジェラール・フィリップ)。あと一年もすれば、自分も徴兵される。連日、負傷兵が次々と運び込まれてくる現状に、どこか不安を感じながらも仲間と学生生活を楽しんでいた。

ある日、美女のマルト(ミシュリーヌ・プレール)がやって来た。彼女は病院勤務の看護師である母親の勧めで、看護助手になるべくの来園であったが、不安げな風情を漂わせていた。そんな彼女に心を奪われるジョーベール。

何の予備知識もないまま、いきなり負傷兵を見たマルトは気絶してしまう。彼女の姿を見たジョーベールが駆けつけて・・・

普遍的内容の男女関係を描く古典的メロドラマの秀作。

17歳の高校生と25歳の女性。時は戦時下で、女性の方は戦場に赴いている兵士の許婚者がいる。

高校生の大人の女性への憧れというか、一途な恋愛感情が沸き起こり、ストレートにその抑えられない気持ちをぶつけていく。

一方、女性の方も、相手が子供ながらも二枚目であり、直情型に口説いてくるので、心が揺れ動く。

確かに若者同士の、ありきたりな恋愛模様と受け取れる。しかし、本作は、その『ありきたり』なメロドラマを、見事な筆致で綴っていくのだ。

重要なのは、戦時下という時代で、人間それぞれが不安な時期でもあり、特に青年は来年まで戦争が続けば徴兵されるという不安と、女性は許婚者がいつ死ぬかもしれないという恐怖が、日常に横たわっているから、その薄氷を踏むような日常では、逆にダメだということほど燃え上がるものなのだろうか。

当然、双方には家族や周囲の人間がいて、二人の関係の危うさが、観る者にサスペンスを喚起させても来る。

原作は不世出の天才と呼ばれるレイモン・ラディゲ。彼は20歳という若さで早世した作家で、本作を書いたのが17歳の時である。

それを見事な映像表現を用いて映画化したのがクロード・オータン・ララ。

照明により浮かぶ川面の波紋や暖炉の炎で連想させる男女の関係性。登場人物の心を描くために用いられる、オーヴァー・ラップや移動撮影。俯瞰ズーム・アップやズーム・ダウンとカメラが近付いたり遠ざかったりするという映像テクニックが、見事に白黒スタンダード画面に次々と紡ぎだされる愉悦。

確かに現代では、すべてが使い古された技法であろう。しかし、これぞ『映画』という表現は、台詞により、すべてを語らなくても、観る側の心を鷲掴みにしてくる。

ジェラール・フィリップの見事なまでの演技や、終盤で描かれる別れ難い二人がいる酒場の喧騒シーンなど、鳥肌が立つほどの戦慄を覚える。

青春の情緒不安定さと、年長女性の残酷なまでの翻弄が、まるで『憑きもの』のように燃え上がる恋愛ドラマである。

余談雑談 2016年10月29日
ハロウィンだとか。この週末、東京の渋谷では仮装した人間が大騒ぎするとかで、交通規制が行われたり、警察官も増員される。 クリスマスやら、バレンタインやら、妙にキリスト教のイベントが好きな日本人。本来の宗教的な意味合いは関係なく、愉しむイベント