スタッフ
監督:デヴィッド・マメット
製作:ジーン・ドゥーマニアン
脚本:デヴィッド・マメット
撮影:ガブリエル・ベルスタイン
音楽:カーター・バーウェル
キャスト
ロス / キャンベル・スコット
デル / スティーヴ・マーティン
スーザン / レベッカ・ピジョン
クライン / ベン・ギャザラ
ラング / リッキー・ジェイ
マッキューン / フェリシティー・ホフマン
ビジネスマン / リチャード・L・フリードマン
リゾート・コンセルジュ / ヒラリー・ヒンクル
日本人男性 / タケオ・マツシタ
日本公開: 1999年
製作国: アメリカ スィートランド・フィルムズ作品
配給: ポニー・キャニオン
あらすじとコメント
スティーヴ・マーティン。前回まで紹介した作品では、圧倒的に「コメディ俳優」という印象が強い。ところが今回は、全く違うジャンル。中々、良く出来たサスペンス・スリラー。
アルゼンチン、エステフェ会社の命運を決する重大システムを開発したロス(キャンベル・スコット)は、社長のクライン(ベン・ギャザラ)、上司、秘書のスーザン(レベッカ・ピジョン)の四人で、システム売買の話し合いのためやって来ていた。
出資者らとの会談は好感触を得て、後は慰安旅行的な雰囲気となった。すると、ロスの持っている使い捨てカメラを1000ドルで譲ってほしいと、アメリカ人のデル(スティーヴ・マーティン)が、声をかけて来た。些か疲れていたロスは、欲しいのならタダであげる、と手渡した。
その夜、また偶然デルと再会すると、昼間の傲慢な態度を詫びてきた。それを機に、意気投合した二人は、翌日も行動を共にし、デルから、ニュー・ヨークに帰ったら妹と三人で食事でもしないかと誘われた。快く承知したロスは、彼と別れ、一足先に社長らと帰国することになる。
そしてホテルをチェック・アウトするとデルがやって来て、これをニュー・ヨークの妹に届けてくれと紙包みを渡してきた・・・
システム開発者が巻き込まれる陰謀を思わせぶりな進行で描く佳作。
自分が開発したシステムが巨額の富を生むと思っている主人公。しかし、社員である以上、あくまで会社の歯車で、自分にどれほどの見返りがあるのかと不安になっている。
そこに実に思わせぶりな人間が次々と絡んでくる。
主人公は、アメリカン・ドリームを夢見ている男。その割には、どこか「抜けている」と思わせる進行であり、サスペンス・スリラーであるから、こちらも伏線なり、裏を見定めようと鑑賞していく。
しかも、その作劇が、ヒッチコックを非常に意識していると感じざるを得ないのである。
そもそもキーとなる『重要システム』が何であるのかという、細かい設定を一切わざと無視しているのはヒッチの好きな「マクガフィン」である。
何せ、何をしているのか解らない業種であり、富を生むはずの数式も大き目のノートに手書きでの走り書きだ。
思わせぶりなインサートショットやわざと不自然なピントで意識的に強調される小物。
主要人物たちの後ろを通過するエキストラまで、実にわざとらしく思わせぶりである。まるで、後ろの通行人すら、後の重要なキーマンなのではと思わせる。
ただし、この手の映画を見続けてきた人間からすると、監督がかなり意図的に観客に対し、丁々発止を仕向けているとも感じるだろうか。
しかし、それらは全て手法としての演出であり、自分は騙されないぞと構えて鑑賞する観客側に対する挑戦状なのである。
それを踏まえた上での脚本と監督双方をこなしたデヴィッド・マメットなのだろう。
彼自身も映画ファンであると感じるし、自分としては、同じ匂いを感じた。
日本人としては、実に興味深い煽動もあり、バカにされているのかと思わせるが、その落とし所も、嫌いではない。
「スパニッシュ・プリズナー」と謳いながら、全く「スペイン」なり、「スパニッシュ」が関係しないのも、実にヒッチコック的。
「マクガフィン」ということ自体に最大の視点を置き、いかに、そこから観客の意識を外していくかという挑戦であり、設定やカメラワークも、ありがちとはいえ、一応の成功は収めていると感じる作品。