スタッフ
監督:ピーター・ボグダノヴィッチ
製作:ピーター・ボグダノヴィッチ
脚本:ピーター・ボグダノヴィッチ
撮影:ラズロ・コヴァックス
音楽:チャールズ・グリーン 他
キャスト
オーロック / ボリス・カーロフ
トンプソン / ティム・オケリー
ローリン / アーサー・ピーターソン
スミス / モンティ・ランディス
ジェニー / ナンシー・スー
マイケルズ / ピーター・ボグダノヴィッチ
トンプソンの父親 / ジェームス・ブラウン
ラーキン / サンディ・バロン
シャーロット / メリー・ジャクソン
日本公開: 未公開
製作国: アメリカ サティコイ・プロ作品
配給: なし
あらすじとコメント
老優の挽歌。前回は喜劇王チャップリン、今回は元祖怪奇俳優のボリス・カーロフにした。秀作「ラスト・ショー」(1971)、オニール親子共演の「ペーパー・ムーン」(1973)を輩出する映画評論家出身ピーター・ボグダノヴィッチが、チャップリン同様、製作から出演までこなした衝撃的デビュー作。
アメリカ、カリフォルニア怪奇モノ専門のヴェテラン男優オーロック(ボリス・カーロフ)は、最新作完成直後、突如、引退する旨を申しでた。周囲は必死に止めるが、彼の意思は固いようであった。
監督のマーティン(ピーター・ボグダノヴィッチ)は、次回作はオーロックのために書き下ろし作を用意しており、直談判をするが、首を縦に振らない。それでも翌日、新作の先行上映がドライブイン・シアターで催されるので、それだけは出席して欲しいと懇願した。それを最後にするとオーロックはやっと同意した。
一方、妻と両親と何不自由なく暮らす青年トンプソン(ティム・オケリー)。彼は真面目で大人しい性格で、父親と狩猟に行くべく、仲良く猟銃の訓練に勤しんだりしている。だが、どこか精神を病んでいる素振りを見せることもあるが、誰ひとり平素の彼の性格から疑念を持つ者もいなかった。
ある朝、早く起きた彼は、引き出しから拳銃を取りだして・・・
市井の青年が突如、テロリストとなる姿を老優の引退と絡めて描くスリラー。
自分の時代は終わったと引退を決意する老優。周囲には細かい理由を語らず、だが、意思は強固。
方や、好青年が無差別殺人鬼に変貌する。
このまったく接点のない二人の姿が交互に描かれていくのだが、共通するのは、二人とも背景が一切語られないこと。
ボグダノヴィッチ監督のオリジナル・ストーリィであるが、製作の二年前に起きた「テキサスタワー銃乱射事件」がベースになっている。
死者16名、負傷者31名をだした衝撃的事件。その犯人も、優秀で真面目な元海兵隊の狙撃手の青年で、事件を起こしたタワーのある大学の大学院生であった。
衝撃的事件であり、本作以後もTVムーヴィー「パニック・イン・テキサス・タワー」(1975・未)や、「パニック・イン・スタジアム」(1976)等が、事件にインスパイアされた作品として制作されている。
いかにも犯罪者然とした人間の犯行でなく、市井の人間が急に殺人鬼となる。銃社会アメリカの病巣でもあり、本作でも、青年の日常が点描されるだけで、そこに行き着く背景やニュアンスは一切、語られない。
だからこその恐怖。普通の観客が理解できなく困惑する人間の闇。
その一方で、怪物や悪役というB級イメージの強い、一部のマニアにしか認知されていなかった老優を、含蓄がありそうだが、決して語らない昔気質の老人として、まるでそれこそがカーロフ自身に重なるような演じさせ方。
その真逆のタイプでありながら、妙なシンクロニシティを感じさせる作劇。
いかにも低予算作品であり、リアリティや逆に大袈裟感もない。
それが『B級映画の雄』ロジャー・コーマン的匂いと共に、アメリカン・ニュー・シネマの香りとも取れる、こちらに落ち着き感を与えない不安定さが、古い映画への決別と、嫌でも襲いかかってくる人間の脆弱さをも並列的に喚起させる。
ある意味、ヴェトナム戦争へのアンチテーゼとしても受け取れる佳作。