スタッフ
監督:ジュリアン・デュヴィヴィエ
脚本:J・デュヴィヴィエ、シャルル・スパーク
撮影:ジュール・クリュージェ
音楽:モーリス・ジョーベール
主題曲:モーリス・イヴェン
キャスト
ジャノー / ジャン・ギャバン
シャロ / シャルル・ヴァネル
テインティン / レイモン・エイムス
ジーナ / ヴィヴィアーヌ・ロマンス
ジャック / シャルル・ドラ
アルトメール / ラファエル・メディナ
ユゲット / ミシュリーヌ・シェイエル
呑んだくれ / レイモン・コルディ
会計士 / シャルル・グランヴァル
日本公開: 1937年
製作国: フランス シネ・アリー・プロ作品
配給: 東和
あらすじとコメント
ジュリアン・デュヴィヴィエ監督で続ける。前回は、老優たちの住む養老院の話だったが、今回は一枚の「くじ」を巡る、ある種、集団人間ドラマで、貧乏だった仲良し五人組が繰り広げる群像劇の秀作。
フランス、パリ不景気の真っ只中で、失業中の男たちがいた。男前のジャノー(ジャン・ギャバン)、苦虫を噛み潰したような感じのシャロ(シャルル・ヴァネル)、スペイン人の政治犯で警察に追われるアルトメール(ラファエル・メディナ)、他にも陽気なタンタンや若いジャックの五人。
ボロアパートの一室に一緒に暮らしているが、家賃も払えず、追いだされる寸前だ。ところが、ちょっと前に買った宝くじが、見事当選し大騒ぎとなる。何せ、特等10万フランで、ひとり頭で2万フランだ。一挙に、金持ちになる五人。夢は膨らむ一方で、カナダへ行きたい奴や、故郷に帰って手馴れた仕事を再開するとか、放浪の旅に憧れるとか、各々が語りだす。
しかし、今まで貧しいながらも仲良く暮らしてきた仲間がバラバラになるのは寂しいから、共同で郊外に家を建て暮らさないかとジャノーが言いだして・・・
富を得たことから人生の歯車がギクシャクしていく姿を描く秀作。
折角の大金を分けずに皆で郊外の家で暮らそうと川べりの元洗濯場を買い取る五人。
そこから夢は膨らんで行き、どうせなら上手い料理と宿泊が出来るオーベルジュにしようと。
そして自分らで廃屋を修理して行くという展開。
ところが毎日協力に来る政治犯の恋人に恋心を抱く仲間がでてきたり、派手な別居中の妻に翻弄される仲間など、徐々に雲行きが怪しくなって行く。
「面白ろうて、やがて悲しき」の典型作である。
どこか精神的ホモセクシャルさを感じさせる男たちが、女性が絡む二組の三角関係が重大なストーリィの転機となって、胸がつかえてくる進行と相成る。
そこは流石の戦前フランス映画だと感心する。万事大らかな奴、格好付けているが精神的に弱い奴など、ステレオ・タイプの仲間たちではあるが、時代を考えると解りやすい。
その上、作劇もそのイメージ・コントロールに沿って進行するので乗りやすい。
万事、他人と逆な価値観をモットーとするフランス人のイメージだが、この時代は素直さが勝る映画が多かったのだろうか。
しかし、出来上がった作品を見ると、そんなに単純ではない。個人主義と仲間意識が、他人への素直さと自らの歪みのバランスの均衡が崩れると悲劇度は加速していく。
そして、そこには常に異性である「女」二人が絡む。その女らも正反対の性格ゆえ各々の心の乱れ具合が複雑化するのである。
故に、どうしてもホモセクシャルな雰囲気が匂い立つ。
ただ、貧乏から脱出し、成金というか、「あぶく銭」という分不相応な金を持ち、夢を見るのが仲間同士の平和な郊外での生活という点も、市井の人間からすると「理想郷」なのだろう。
リーダー格で陽気に振る舞うギャバンの決して上手くないが歌う場面も微笑ましい。
だが、その前提には、既に暗い影があるという皮肉。日本公開版と正反対のラストがあり、DVDには特典映像として収録されているので双方を見比べたが、こうも印象が変わるかと驚いた。
当時の日本人には、間違いなく公開版の方が納得が行っただろうと感じる。
時代性を感じざるを得ないが、それでも一度は見ておくべき作品。