スタッフ
監督:山下敦弘
制作:奥沢邦成、大島満
脚本:山下敦弘、向井康介
撮影:近藤龍人
音楽:くるり
キャスト
坪井 / 長塚圭史
木下 / 山本浩司
敦子 / 尾野真千子
タクシー運転手 / 多賀勝一
宿の男主人 / サニー・フランシス
宿の女主人 / 天野公深子
食堂店員 / 瀬川浩司
ケチャップの少年 / 川元将平
船木 / 山本剛史
製作国: 日本 ビターズ・エンド、バップ作品
配給: ビターズ・エンド
あらすじとコメント
人間たちの持つ、それぞれの距離感と各々の存在意義。不可思議とも呼べる「必然の世界観」が寂れた風景の中で漂泊するように描かれる作品。
鳥取県、冬二人の男が小さな無人駅の前で佇んでいる。ひとりは坪井(長塚圭史)で、もうひとりは木下(山本浩司)。彼らは東京から映画の撮影準備のために来ていたのだが、一度顔を合わせた程度の知り合いだ。
そんな二人を繋ぐ男から坪井の携帯に連絡が入る。何と、まだ東京の自宅にいると言うのだ。その男の到着まで、仕方なく二人で過すことになった。
だが、宿泊予定の宿は閉鎖中。気まずさを引き摺ったまま飛び込みで旅館を探す二人。何とか一軒宿を見つけて泊まるが、打ち解けず気まずいままの二人。
翌日、することもなく、彼らが海を見てると、突然、裸の敦子(尾野真千子)が、彼らに駆け寄ってきて・・・
リアル感たっぷりに非日常の世界を描くロード・ムーヴィー。
映画製作に携わる男たち。『アーチスト』、『職人』。呼び方や自己の方向性は様々であるが、自分が受け持つパートに誇りと情熱を持っている。
しかも、その職業の殆んどは『フリー』である。つまり『自由業という名の自由人』というイメージもある。
当然、普通のサラリーマンや自営業の人間たちとも違う世界に生きている。
しかし、本作での『映画人』は、どこか歪んでいる。「独自の世界観」を持っているが、経験に裏打ちされた風情はない。
むしろ、対人関係が苦手で、他人に対する気配りや関係構築も希薄な人生を送ってきたと思わせる男たちだ。
だから、他人が傷付く言動を平気で取れる。しかし、一応の大人であるから、失敗に気付きはする。それでも反省はない。
その独特な価値観の違いが、ずっと二人で過さなければならないのに微妙な距離感が横たわる。
そんな男たちに関わってくる、やはり「いびつ」な人間たち。人里離れた宿にいる外国人。突然、裸で真冬の海岸を走ってくる若い女。彼女は、服も財布も波にさらわれたと言う。
そんなことは有り得ないだろうということが、平然と起きる展開。それが、妙なリアル感を伴って描かれる。
原作は、つげ義春の漫画。独特の世界観を独特のタッチで描く漫画家である。
それをリアルな人間たちが、リアルに演じる。どこかには絶対に居そうな人間が、絶対に居ないであろう場所に存在する世界。
映画は、主役二人が独自の価値観を持っていると感じさせる冒頭から、徐々に、何も持っていないと思わせる虚無感を漂わさせていく。
有り得なさそうで有り得る。否や、絶対に有り得ると感じさせる『痛さ』を伴って浮遊し、その結果、見えてくるものは何であろうか。
個人的には、寂れた冬の田舎に置換された「大都会」そのものの『孤独』であった。どこか「痛寒い」という感覚とも言えようか。
ただし、それは都会に生まれ、都会に育った出自ゆえの見方でもあろうが。