スタッフ
監督:マルセル・レルビエ
原作:アンリ・ベルンシュタイン
脚本:マルセル・レルビエ
台詞:ミシェル・デュラン
撮影:ハリー・ストラドリング
キャスト
クララ / ギャビー・モレー
リュシェール / シャルル・ボワイエ
ルイーズ / ポーレット・デュボスト
バルボン / ジャン・トロワ
裁判長 / ジョルジュ・モロア
マルピアス / ミシェル・シモン
弁護士 / レオン・アーヴェル
エドモンド / ロバート・コレット
ブロンバーグ / ガストン・モーガー
日本公開: 1937年
製作国: フランス パテ・ナタン作品
配給: 不明
あらすじとコメント
戦前のフランス映画黄金時代。そんな時代に制作された作品で繋げてみる。前回は艶笑コメディだったが、今回は正統派メロドラマ。巧みな演出術で描かれる、これぞメロドラマという秀作。
フランス、パリ新聞の風刺漫画家リュシェール(シャルル・ボワイエ)は、反社会主義者でもあった。そんな彼の独特のセンスが評判を呼び、ハリウッドから凱旋帰国する女優クララ(ギャビィ・モレー)の似顔絵を描いて欲しいと依頼される。
大群衆が待ち受ける駅に行き、クララの到着を待つリュシェールだが、周囲のファンの狂騒がお気に召さず、苦虫を噛み潰した態だ。彼にはあまりにも低俗な人間たちと写っていたからだ。そこに汽車が到着し、満面の笑みを浮かべて下車してくるクララ。
一応、仕事はこなした。そんな彼に、以前より興味を持っていた美容師のルイーズ(ポーレット・デュポスト)が、声を掛けた。孤独な彼は、ルイーズの誘いに応じ、クララが出演する劇場に観劇に行った。そして舞台の上で歌うクララに目をみはった。
ショーが終わり、劇場からファンの前にでてきたクララに一発の銃声が響いた。
何と撃った犯人は・・・
アナーキストと人気女優の恋愛を絶妙な作劇で描く秀作。
突然、撃たれる女優。相手は反社会主義者の男。その場で逮捕されるが、犯人は完全黙秘。
一体、何故という疑問が新聞から社会を駆け巡り、やがて裁判となる。流石にそこでは証言するだろうと。
それからの展開が、些か強引さを感じるのだが、当時としてはそれでも充分に『映画的』である。
当時の機材で、これほど流麗なるテクニックを駆使したカッティングの繋ぎ方が絶妙な編集は、ヒッチコックとは別な意味で、驚かされる。
映画が音を持つ「トーキー」になって7年後の作品であり、監督のマルセル・レルビエは無声映画時代から活躍した人物。
かなりな力量を持った御仁だと感じるが、以後は、あまり名作を輩出していない。
というよりも、後に「高等映画学院」を創設し、ルイ・マル、アラン・レネなどの名監督を世に送りだしていく立場に変わるのである。
また、興味深いのが俳優の存在。全員が完全なるオーバー・アクトという点。
サイレント時代は体での表現しかできず、また、舞台俳優出身が大勢いたので、映画の画面では、珍妙なほどの大袈裟な身振り手振りが画面を覆う。
しかし、それも愉悦ではある。ヒロインのスタイルも、現在では信じ難い体型であるが、当時はフランス映画界で、最も美人と謳われていたのだから時代とは実に面白い。
他にも、完全なるゲイとして登場するマネージャーや、没落貴族でヒモの亭主。やり手の被告側弁護士など、どの人物も個性的で面白い。
映画が、どれほどの影響力を持っていたかを感じ取るには絶好の作品であろう。
既に、クラシック過ぎて認知度は低い映画となっているが、それでも、本作は秀作であると位置付ける。