スタッフ
監督:マルセル・カルネ
原作:ウージェーヌ・ダビ
脚本:マルセル・カルネ
撮影:アルマン・ティラール
音楽:モーリス・ジョベール
キャスト
ルネ / アナベラ
ピエール / ジャン・ピエール・オーモン
エドモン / ルイ・ジューヴェ
レイモンド / アルレッテイ
ホテル主人 / アンドレ・ブリュノ
主人の妻 / ジャンヌ・マルカン
トレモー / ベルナール・ブリエ
ジャンヌ / シモーヌ
ジネット / ポーレット・デュボー
日本公開: 1949年
製作国: フランス セディフ、コシノール作品
配給: SEF 東宝
あらすじとコメント
前回の「かりそめの幸福」(1935)同様、男と女と拳銃が、重要な関係性を持つドラマで続ける。グランドホテル形式で綴られる人間ドラマの佳作。
フランス、パリ北東部にあるサン・マルタン運河沿いに立つ「北ホテル」。そこには長期滞在する客たちが住んでいた。
ほとんどの客はオーナー家族と一緒に大テーブルで食事をとるようなアット・ホームな宿でもあった。だが、売春婦レイモンド(アルレッティ)と、ヒモのようなエドモン(ルイ・ジューヴェ)は、他の客と一線を画しているようである。
ある晩、若いカップルのルネ(アナベラ)とピエール(ジャン・ピエール・オーモン)が、一晩の部屋を求めてやってきた。彼らは部屋に入ると、やっとつらい生活から開放されると喜び合った。
その直後、部屋から銃声が響いた。隣室のエドモンが駆けつけると、ベッドには撃たれたルネが横たわっていて、傍らに拳銃を持ったピエールが立っていた・・・
心中騒動を起こしたカップルと周囲の市井の人間らが織り成すドラマ。
身寄りがなく21歳まで孤児院にいたヒロイン。社会にでて低賃金の職に就いたが将来の希望はなかった。
そんな彼女と心中を図る恋人。だが、男は彼女を撃った後、自殺できず逃亡。当然かもしれぬが、どこか頼りない若者だ。
運良くヒロインは一命を取り留め、翌日、相手の男は自首。それでもヒロインは相手への愛を貫き通そうとする。実に健気だ。
そんなヒロインに経営者夫婦が、行先がないのならここで住み込みとして働けと提案する。
暗い内容から、幾ばくかの希望が提示される展開となる。
ところが美人が働きだしたことから、ヒモ男や他の男たちが目の色を変えだす。
投獄中の恋人。そして、そんな若僧より自分の方が勝っていると口説きだす面々。
当惑するのは周囲の人々で、ヒロインは頑なに恋人への思慕を貫こうとする。
総体的なイメージは、甘美なるセンチメンタリズムである。それも市井の人間たちの。
ヒロインによって、住人たちに起こる不協和音も絡み、やがてヒモ男の過去も明らかになって行き、サスペンス要素も加味されてくる。
残念ながら、ヒロインと相手の若者の演技は上手くない。まるで、昨今の人気アイドルを起用したようなイメージもある。
ただし、脇役陣が素晴らしい。その不思議なアンサンブルが交響楽の趣ではなく、ジャズのセッションのような複雑な雰囲気を醸しだす。それも本作の特徴の一翼だろう。
ヒモ男のルイ・ジューヴェを筆頭に、マルセル・カルネ監督お気に入りのアルレッティ、後に絶妙な脇役になって行くアンドレ・ブリュノやベルナール・ブリエ。
登場する『北ホテル』は実在するホテルで、映画と同じ場所に建っていて、以後、観光名所にもなったとか。
それをわざわざ、目の前の「回転可動式橋」を含む古い街並みをセットで再現しているのも興味深い。
ロケでなく、セットとして再現したことにより、どこか、お伽噺的印象を生みだす。広いようで、狭さを感じさせるのもセットゆえだろう。
そういったカルネ監督の意識的に作りだされる「市井の人間」たちの群像劇。
制作されたのが第二次大戦直前というのも加味されるべきだろう。
いかにもの往年のフランス映画といえる佳作。