愛すれど心さびしく – THE HEART IS A LONELY HUNTER(1968年)

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スタッフ
監督:ロバート・エリス・ミラー
製作:トーマス・C・ライアン、マーク・マーソン
脚本:トーマス・C・ライアン
撮影:ジェームス・ウォン・ハウ
音楽:ディヴ・フルージン

キャスト
シンガー / アラン・アーキン
マーガレット / ソンドラ・ロック
アントノボロス / チャック・マッキャン
コープランド / パーシ-・ロドリゲス
ケリー / ビフ・マクガイア
ケリー夫人 / ローリンダ・バレット
ポーティア / シシリー・タイソン
ウィリー / ジョニー・パウエル
ジェイク / ステーシー・キーチ

日本公開: 1969年
製作国: アメリカ ワーナー作品
配給: ワーナー


あらすじとコメント

「天井桟敷の人々」(1945)で、画面に釘づけにされた『パントマイム』という映像表現。今回も、台詞でなく演技そのもので、こちらを釘づけにする作品を選んだ。だが、パフォーマーでなく障がい者。静かだが、見事なドラマ。

アメリカ、ジョージア聾唖者ながら彫金師として働くシンガー(アラン・アーキン)は、同じく聾唖者であり、更に知的障害でもあるアントノボロス(チャック・マッキャン)の面倒を見つつ、静かに暮らしていた。

ある深夜、外出したアントノポロスが、町のケーキ屋のショーウィンドウを割り、展示してあった菓子を食べているところを警察に保護される。警察も二度目であり、障害があるとはいえ、次回は処罰を考えざるを得ないと警告される。

家族のない彼の面倒を見続けたいと「後見人」を弁護士と申請するが、手続きまで、かなり時間を有すると告げられる。それでも、お互いにひとりでは生きていけないと承諾するが、直後、彼の唯一の血縁である従兄弟から、アントノボロスを都会の病院に入所させると聞かされる。弁護士からは、見舞いに行くのも大変だろうから、いっそ、君も都会に転地してはどうかと進言された。

そしてシンガーは、見ず知らずの町に行き、部屋貸しするという、とある家庭を訪れる。

出迎えたのは高校生のマーガレット(ソンドラ・ロック)だが、彼が聾唖者と知って・・・

差別と孤独という心の闇を悲劇的に描く人間ドラマの佳作。

聾唖者だが、真面目な青年。たった一人の友人である障がい者の厄介払い的入院措置のため、一緒に新天地に赴くことになる。

そこは田舎町以上に複雑な人間が共棲している場所でもある。しかも、南部ということもあり、あからさまな黒人差別があり、更に、よそ者に対しても冷たい土地柄。

健常者に対しても、それが当然であるので、障がい者は、更に差別的に扱われる。

そんな主人公が間借りする家庭も主の怪我から未収入であり、高校生のヒロインを筆頭に小さな弟が二人もいるので家計は火の車。

しかも、多感な時期の女子高生は、自分の部屋を貸しだされたことで、更に、気分を害している。

そこから、生きる目的を見失っている流れ者のアル中気味の白人男や、医師というエリートながら、黒人ということで差別され続けてきた意識の高い男が絡んでくる。

そのエリート医師は、男手ひとつで育ててきた、ひとり娘の現状に鬱憤が溜まっている。

誰もが闇を抱え、もがいている状況。持って行き場のない不安と、それを解消する方策を見いだせない人間たち。

そんな周囲の人間らに、主人公は読唇術が出来るので、表情と言葉から寄り添うように優しく接していく。

それでも誰もが閉塞感から逃げられないという、絶望的悲劇性を伴って描かれていく展開。

主人公以外の五体満足な人間でも、そのことだけでも幸福であるという観念すら希薄で、思い悩んでいる。

しかし、主人公は口はきけないが、『普通の人間』として生活しており、自分は他人の話を聞けるということで、何か出来ないかと行動して行く。

結局、人間は孤独ながら、承認欲求が強い生き物なので、誰もが主人公に心を開いて行くのだ。だが、どこかで差別意識を持っていることを、何気なしに言葉や態度で表現してしまう残酷さ。

本当に、やるせない気分に追い込まれ続ける進行。

登場人物の誰にでも、少し光明が差す展開があるが、そんな単純なハッピー・エンドにはなっていかないジレンマ。

主人公は生まれた時からの劣等感を克服し、だからこそ他人に優しい。しかし、彼とて孤独と絶望感は持っている。

何とも胸がつまり、それが薄れることなく、蓄積されて行く。

主人公が相手と距離を縮めようとする重要なファクターとして「チェス」と「レコード」が登場して来る。

チェスは理解できるが、耳も口も不自由な主人公が、何故、レコードという「音」なのか。

登場してくるのは全員が等身大の市井の人々。

時代性や場所柄もあろうが、雑多な人間たちだからこそ派生するそれぞれの悩みと葛藤。

主人公が健気に、誰にでも接するので、余計に、こちらも身も心も詰まってくる。

これも「アメリカン・ニュー・シネマ」の方向性であり、更に、常に悲劇性が伴う内容。

封じ込めることも開放されることもない「人間の性」。実に重いテーマを重いまま描いていく。

太陽が輝き続ける画面構成ながら、吹き込んできた遠い砂漠の砂が、口に入ってくるような後味の作品。

だが、良く出来ている。

余談雑談 2017年12月9日
師走なのだが、ノンビリした日常。だからか、今年は母の圧迫骨折で現実逃避旅行に行けなかったなと思い起こしたりしている。 なので、母の回復も顕著だし、来年は今年の分も取り返すかなと第一弾に着手した。 奥日光の温泉旅である。沖縄も良いが、どうせな