スタッフ
監督:ノーマン・Z・マクロード
製作:サミュエル・ゴールドウィン
脚本:ケン・イングランド、E・フリーマン
撮影:リー・ガームス
音楽:デヴィッド・ラクシン
キャスト
ミティ / ダニー・ケイ
ロザリンド / ヴァージニア・メイヨ
ホリングスヘッド博士 / ボリス・カーロフ
ミティ夫人 / フェイ・ベインター
ピース / サーストン・ホール
ガートルード / アン・ルザーフォード
ワッズワース / ゴードン・ジョーンズ
グリスフォルド婦人 / フローレンス・ベイツ
ヘンドリック / ヘンリー・ゴードン
日本公開: 1950年
製作国: アメリカ S・ゴールドウィン作品
配給: 大映洋画部
あらすじとコメント
前回は二人の障がい者が犯罪に巻き込まれるコメディ。今回は『妄想家』が、犯罪に巻き込まれるコメディなのだが、ファンタジー的要素も入った作品。
アメリカ、ニュー・ヨーク三文小説専門の出版社に勤務するミティ(ダニー・ケイ)は、無類の妄想家である。今朝も母を乗せた車の中で、母から『海流』という名の洗剤を買って帰宅してと言われ、そこから、荒海で必死に舵を取る船の船長に自分を重ねた。
その船長を愛おしそうに見つめる美女(ヴァージニア・メイヨ)。その美女は、夢の中ではいつも同じ女性である。我に帰ったミティは、母に急かされ駅から列車に乗り会社に向かった。
その途中、いきなり怯えた風情で美女が座ってきた。何と、彼女は夢でにでてくる女性と同じだった・・・
夢想家の男が、その性格ゆえ巻き込まれるファンタジー・コメディ。
マザコンで、出版社では「校正係」。激しい内容の小説ばかりを10年も読んできた男が主人公。
その上、企画までだせと社主から脅され、しかも、採用案は社主の手柄として横取りされる始末。
何ともサエナイ男。だからか、現実逃避型であり、ある意味、パラノイアとも受け取れる。
そんな彼は、夢の中では、常にヒーローであり、現実では絶対に言い返せない相手がいつも敵役。しかし、何故か主人公に惚れるのは会ったこともない女性なのだ。
ところが、その彼女が実在し、しかも彼に助けを求めて来る。主人公は善良な性格ゆえ、実際の犯罪に巻き込まれて行く。
夢想中は時代や設定も様々だが、決まって書割風なチープなセット。まるで舞台劇のような造り。
そして、主人公が決って発する『ポケタ、ポケタ』という擬音。ピストンだったり、エンジン音だったり。
しかも変化に富んだ芸達者ダニー・ケイゆえに、それらしく聞こえるから面白い。
つまり、ケイの力量に依存した作品でもある。
そんな本作がダニー・ケイの日本デビュー作。
当時は、流石、アメリカには凄い力量を持った役者がいるなと騒然としたに違いない。
確かに、それ以後ケイのコメディは日本でも人気を博していく。
実に軽妙で下品さがないスマートな芸風。日米では笑いのツボが違うので、困惑することもあるが、それでも、好きなコメディアンのひとりである。
内容もヒッチコックが好きな「巻き込まれ型」主人公で、コメディ要素もある。
しかも、それが「夢の中」だから滑稽さが際立つ。
それでいて謎めいた展開。悪党らは、ずる賢く、主人公を夢想家だからと異常者として周囲の人間らに思い込ませていく。
その上、実に怖そうな医師が登場し、小説のネタにと殺人手口を売り込みに来たかと思えば、今度は彼を治療すると名医然と再登場してきたりする。
その役を演じるのがボリス・カーロフだから笑わずにはいられない。
ケイのやり過ぎ感はあるものの、彼だからこそ成立したファンタジー・コメディと呼べるだろう。