思い入れのある腕時計。竜頭がとれて修理を逡巡していたが、自室から徒歩圏内にある、昨今人気が出始めた「蔵前」地区に新しく、修理専門店が出来たとの情報を得た。
漠然とした情報だったので、散歩がてらその近くを廻ってみた。しばらく来ないと、路地に至るまで、これほど以前の場所的イメージと違う店舗が出来ているのかと驚いた。
珈琲専門店やら雑貨、皮製品などどれもお洒落な店ばかり。こんなオジサンが、気安く入れる雰囲気ではないなと歩くと、目指す修理屋を見つけた。何のことはない、大通りにあった。
以前が何であったか思い出せないが、やはり、お洒落で高級な店舗。白衣を着た数人がいて、親切そうに受け答えしてくれる。
問題の時計を出すと、その場で裏面を開き、別なヴェテランも来て、二人で見て修理可能です、と即答。何だよ、少し前に行った地元の店とはえらい違いだぞ。
カウンターの傍らには、それ用に欲しかった革バンドまで置いてある。しかも、ネットで探したモノより安価である。期待が膨らんだ。
白衣の一人が、料金表を提示して料金は36,000円プラス税ですと。一瞬にして凍った。
世の中は甘くない。その代金なら沖縄に行ける。しかも、今年はもう一度は行きたいとも思っていたので、脳内でそっと両天秤。
大の大人が、料金を提示されて、何分も熟考するのも気が引ける。一か八か。これだからギャンブル系は嫌いなんだよ。
結果、修理を依頼した。即座に沖縄の風景が遠退いたのは言うまでもない。えい、ついでだ、汗で汚れた革バンドも変えたかったので、ひとつ追加ね、と。
この決定は正しかったのかと店を辞し、帰宅しながら考えた。あれ、そういえば今月は予算オーバーで現金があったか。
何だよ、キャッシングかよ。利息を考えると暗くなった。まあ、沖縄に行ったとして、別にかかる飲食代だと思うしかないか。
その内、禁酒の上、絶食てな人生が待ってるのかね。