スタッフ
監督:島耕二
製作:永田雅一
脚本:船橋和郎
撮影:小原譲治
音楽:平岡精二、前田憲男
キャスト
エミ子 / 中田康子
田辺 / 岩村信雄
星野 / 坂本博士
譲治 / 原田信夫
政吉 / 原健
サブ / 西條公彦
イサオ / 尾藤イサオ
渋谷 / 中条静夫
神田 / 村上不二夫
ローランド・ハナ / 彼自身
製作国: 日本 大映作品
配給: 大映
あらすじとコメント
日本でもミュージカル映画がそれなりに制作されていた。当時、ブロードウェイ作品を和訳して公演したり、本場そのものを直輸入公演したりと人気があったからだろう。そういった作品の中で、異色というか、カルト映画とも感じる作品を選んでみた。
東京東京オリンピック直前の頃。来る外国人観光客や金持ちVIPを接待する「日本観光クラブ」があった。しかし、その実態は売春斡旋組織である。
ボスは田辺(岩村信雄)で、今夜もアメリカのジャズメンたちから依頼が来た。ほとんどの女性を派遣するが、たったひとりエミ子(中田康子)だけは、上品ぶっているからダメだと取り残された。
ふてくされるエミ子だが、直後、上品な女性を派遣して欲しいと依頼が入ってきた。しかし、待ち合わせ場所はホテルではなく、公園の噴水前。そこで傘を持って待っているというヘンな客。
エミ子が行くとそこにいたのは星野(坂本博士)で、ブラジルでコーヒー農園を経営していて、暫く振りの帰国だが昔の仲間がこっちで結婚させようとうるさく言うので、実はフィアンセがいると嘘を付いたと。
で、その相手として仲間たちに会ってくれと言いだして・・・
売春婦と真面目な帰国移民の恋の行方を描く作品。
どこか捨て鉢的なコールガール。真面目で堅物そうな紳士。紳士は肉体ではなく時間を買いたいと言う。困惑しつつもラクな仕事と思うヒロイン。
当然、それから紆余曲折が起きる二日間を描く作品なのだが、はっきりいってストーリーと展開は支離滅裂。
正に絵に描いた餅的内容をミュージカル・ナンバーに乗せて描きたかっただけという印象ではある。
ところが、ここに大映の絶対君主永田雅一が絡むと、思わぬ科学変化を誘発した。
当時、東宝でも元々はブロードウェイの大ヒット作「努力しないで出世する方法」(1967)を完全にパクった「君も出世が出来る」(1964)などが制作され、映画会社のカラーで東宝は『都会派』と呼ばれ、どこかお洒落でスマートな作品を多く輩出していた。
一方で、大映は「座頭市」や「悪名」といったバタ臭い作品群が得意。つまり本作にも、その泥臭さが全開なのである。
ところが、振付師に「回転木馬」(1955)で有名なロッド・アレキサンダーを迎えたことから見事なる振付が繰り広げられ、驚いた。
それなのに当時の身長160センチ程度でスタイルも良くない日本人ダンサーが躍るもんだからカルトな印象を受けるのである。
それでもジャズやロックを意識した楽曲も、中々心地良い。ただし、それを日本語で歌って踊るから、また妙な違和感があり、不思議な感覚に陥っていく。
設定もヒロインが売春婦ということは「スイート・チャリティ」(1968)だし、組織のチンピラたちや、敵対する売春グループの設定やそんな連中の群舞場面は「ウエストサイド物語」(1961)と、かなりいい加減。
内容も楽曲も踊りも複雑。しかし、そこに無理して都会的スマートさを醸そうとしていないから、実は全体がしっくりとし、統一性がある。
驚いたのはヒロインの中田康子が踊りも歌もそれなりに上手いこと。それは彼女が宝塚出身だから。
しかも、東宝から大映に移籍し、社長の永田雅一の公然なる愛人となった。しかし、本作を最後に社長と決別し、完全引退してしまう。
相手役は、藤原歌劇団出身のバリトン歌手で、歌は抜群に上手いが、踊りはダメなのでスロー・ナンバーの時だけチョコチョコで、何とも垢抜けない。
しかし、無理にブロードウェイの完全再現を意識せず、B級感そのままで押し通したのは興味深い。尤も、制作陣はそこまで思っていなかっただろうが。
なので和製ミュージカル映画としては、昔の「オペレッタ歌劇」系は別としても、一番好きなカルト作品である。