実家近くの洋食屋。40歳過ぎの下町らしからぬ夫婦が営み、三度ほど行ったが、自分の嗜好とは違うので遠退いてた。
元々は数年前に、浅草雷門横で長年営業して来た「とんかつ屋」を閉店した老夫婦が自宅の一階で手慰み程度で再開業した店だった。
昔ながらの味で、値段もそこそこなので、時折顔を出したが、店主が病気になり、一年程度で閉業。
ご主人は喫煙者で、実家の顧客であったが、医者に止められ禁煙しましたので、もう来れませんとご丁寧に挨拶に来てきれた人柄。
暫く経つと、中年夫婦が居抜きで洋食屋を開いた。渋谷の西で長年働き、念願叶って独立したと。
どこか下町らしからぬ洗練された味で、付け合せ野菜も丁寧な仕事。ただし、最低でもランチが1000円以上なので、躊躇して止めた店。以後、話題になり繁盛店になったと聞いていた。
ところが、亭主が病に倒れ休業。そうしたら、つい先立て亡くなったと知った。開業して二年と経ってない。
通いはしなかったが、すぐに閉店する不吉な場所となった気がする。
他方、これまた中途半端な場所で「上野」近くに木造平屋一軒家の飲み屋がある。背中の曲がったおじいさんがひとりで切り盛りする「ザ・昭和」な飲み屋。
ただし、いつ開いているのかは賭けである。どうみても70代後半では、仕方あるまい。
なのでたまにしか行ってみぬが、ずっと休業だった。運が悪いのか、それとも、自分のジンクス『通うようになると閉店する』なのか。
それでも、暫く振りに行ってみた。何と、幸運にも赤ちょうちんが点灯中。
それだけで嬉しかった。鉤の手のカウンターで8席のみ。後ろは一段高くなっていてご主人の生活スペース。まさしく雑多な生活の香りがする。
これも昔の下町風だ。冷凍ものばかりだが、価格は安い。もつ焼きは一本80円。小ぶりなのは、ご愛嬌だが。
しかし驚くのは「酎ハイ」用の焼酎の量が半端ないこと。通常、ぐい飲み程度だが、そこはロック・グラスに一升瓶から注ぐ。それだけで二倍はあろうという量。
それで一杯280円。割る飲み物は別売りだが「タンサン」と「ラムネ」で、炭酸は一本70円。
決して綺麗ではないお品書き表は手書きで、随分と年季が入っている。つまりは、長い間値上げをしてないということ。
長年の酒飲みたちの生霊が漂い、それだけに涙がこみ上げてくるような酒場。でも、後、何年もつのかな。
飲食店の栄枯盛衰を随分と見てきたがする。老齢でリタイアする方、不運にも開業してすぐに他界する人。
共通するのは格安チェーン店ではなく、個人営業の店。アルバイトもいないので、個性が出る店。
閉店した洋食屋を借りようかと考えている人がいると聞いたけど、暫く待った方が良い、と余計なアドバイスをしそうだ。
借金までして開業し、返済が始まったばかりで予想外の閉店。残された奥さんや家族。
念願の夢を叶えるのも良いが、無理すると弾けるぞ、って。