調子が良くなった老母に店番を頼んでサボることが増えた。
その時は、迷わず徒歩圏内の食堂で、午前中から少しだけ飲んでのランチが愉しみだ。
手持ちは三軒。しかし、どれも帯に短し的印象。一軒はハンバーグは好きだが、しょうが焼きもイメージと違い、他の炒め物系と同じ味付けで白ゴマがかかっている。要は、味のパターンにメリハリがなく、更に肴系がない。
別な店は、ビールのアテには最適な「鮪のあら煮」があったりなかったりで、ツマミはあるが、メインとなる「から揚げ」や「親子丼」といった鶏系がなく、定食としてのメニューもない。要は、すべてが単品扱い。
もう一軒は無料の付きだしで「枝豆」が数個出てくるのは良いがビールが中瓶しかないのが難点。
なので、いつもこの一軒という店はない。
つまり常に逡巡する。で、別な店を探そうと。徒歩圏内という括りで考える。安い店がありそうなのは『山谷』。大阪の釜ヶ崎同様、日雇い労務者の町だ。
昔は、怖いイメージだったが、随分と変わったのは知っている。あとは昔ながらの店が現存しているかと、ネット検索。
数軒ほどヒットしたので、突撃してみた。ところが、ここでスマホでない難点にぶつかった。ネット上での地図を頭に入れ、大体このあたりと歩いたが、店が実在しない。
確かに、ネット上の地図はずれるとも聞いた。ならば、住所をメモに書き留めて持参すれば良かった。一応、後悔はする自分。
何かないかと歩き廻ったら、ノーチェックの事前にネット検索で引っ掛からなかった店があった。ネット民の琴線には触れぬ店ということか。
暖簾は出ている。ギャンブルは嫌いだが、ここは勝負とばかりに入ってみた。
結果、これが大正解。刺身に天ぷら、鰻まで。まるで昭和のちょっと高級な何でもある食堂だ。
品書きも数多く感動的。ビールの他にもドリンク多数。昔は、こんな店が多かったと懐かしんだ。
エビのかき揚げが550円で20センチはあろうかという量で驚いた。
10時半に入店して、既に飲んでいる先客もいる。これは有難い。
壁の張り紙を見ると営業時間は9時から14時がランチタイム。
定食には、おしんこと味噌汁だけだが、みそ汁が美味いのは嬉しい限り。汁の具は大根だったが、厚さが1センチ近くあり、食べ応え十分。というか、完全に火が通っておらず硬いのも印象を覆す。これが演出だったら面白い。
一見で入り、気に入る。飲食しながら、一皿の量と価格を鑑み、お品書きを見つめながら次回の注文を組み立てつつ過ごす。
何パターンかイメージできた。折にふれ通いたくなる店誕生だな。これから春めいてくるし、散歩には良い時節。
老母には、もう少し頑張ってもらうか、と考えた晴天の昼前。