タバコ屋を閉店した。一ヶ月前から仕入れを激減させ、顧客に告知していった。
本当に驚く人や、週一回程度の客には、一週間前以上からこれが最後のひとつです、長らくご愛顧有難うございました、と。
何せ、こちら都合の閉店だと返品率が異様に悪く、なるべく在庫を残して置きたくなった。
顧客の来店頻度は解っている。通常通り10個単位でしか仕入れられないのは決まっているので、この時期に発注し、半分以上残れば、即赤字だ。
それにしても顧客も人それぞれだとも痛感した。名残惜しそうに最後の一箱を買っていく客。閉店日の確認に来て、幾つ残ってますか、最終日に全部自分の銘柄を買いますという人。
全買いする一人は飲食店経営者。もう一人、飲食経営者がいたが、その人は、そうですかと来ない。両店とも行ったことがあるが、確かに、全買いの方の店は時々行くが、他方には一度だけ。
ここでも自分目線だが口に合う合わないの差がある。もしかして、性格の差を味としても感じたのだろうか。
そして迎えた最終日。あいにくの雨模様だったが、夕刻から顧客がやって来た。中には喫煙者ではないが、母の行きつけの美容院の方が挨拶に来てくれたりもした。顧客は顧客で、本当に名残り惜しそうだったり、ご苦労様とか、淋しくなるねと買い求めていった。
20年ほど前のスタンド閉店日を想起した。その日は、空前の忙しさだった。どの車両もガソリンは数リットルしか入らない。狭い敷地だったので給油待ちの列が出来た。
従業員たちは昼飯もロクに摂れず、閉店時間まで長蛇の列が続いた。販売数量は至って通常通りだったが、ほぼ全顧客が「最後だから、ここで給油する」と。
ずっと、ここでガソリンを入れてたから、挨拶を兼ねてな、と。最後は従業員も客も泣いていた。
人情を感じた。人生で二度目の廃業。痛感したのは、つくづく商売に向かない人間だということだった。どの道、定年退職ではないが、ひとつの完全なる区切り。
だが、この感覚は時代が加速度的に変わろうと、動画を含むSNSとは違い、対面してこそ感じる温もりだろうか。
などと言ってはいるが、自分だって、ここでは文字での一方通行なんだよな。
さてさて、どんな余生が待ち構えているんだろうか。