スタッフ
監督:アンソニー・アスキス
製作:トーマス・クライド、ベン・カディッシュ
脚本:ジョン・モーティマー
撮影:ロバート・クラスカー
音楽:ベンジャミン・フランケル
キャスト
クレア / レスリー・キャロン
ジョーダン / デヴィッド・ニーヴン
リヴェラ大統領 / デヴィッド・オパトッシュ
ブライアント / ジェームス・ロバートソン・ジャスティス
スワン医師 / イアン・ハンター
ヘルナンデス大佐 / デレク・ゴッドフリー
バスティン婦人 / エレノア・サリーフィールド
バスティン / リチャード・ピアソン
ゴメス少尉 / シャーンドル・エルス
日本公開: 1962年
製作国: イギリス カヴァルゲート、コンコルド・プロ作品
配給: ワーナー
あらすじとコメント
前回の「七つの雷鳴」(1958)で印象深い殺人医師役を演じた英国の巨漢俳優ジェームス・ロバートソン・ジャスティス。「謎の要人悠々逃亡!」(1960)の主役が代表作だろうが、そんな彼が出演した作品で、同じく脱出をサスペンスフルに描く冒険活劇佳作。
南米トリュブラシオン共和国外国人用に開放された『国際農場』で、リーダー格ブライアント(ジェームス・ロバートソン・ジャスティス)が主催する「年越しパーティー」が行われていた。
そこにはイギリス人のジョーダン(デヴィッド・ニーヴン)と妻クレア(レスリー・キャロン)の姿もあった。皮肉屋のジョーダンは異国での生活に嫌気が差しているようで、いつも以上に嫌味がちであった。
一方、同時刻、大統領府を軍隊が静かに包囲を始めた。新年と同時にクーデターを起こす計画だったのだ。そんな事は露知らずパーティーは年を越して盛大な宴となるが、ジョーダンは一足先に帰宅してしまう。
翌朝、妻の具合が悪いと医師を呼んで診療を受ける。様子を見ようという医師の指示に従い、車で送ろうとドアを開けると、中に怪我をした男が横たわっていた。
何と、命からがら逃げ延びたリヴェラ大統領(デヴィッド・オパトッシュ)だった・・・
大統領を助けたことから巻き込まれる夫婦を描く冒険活劇。
どこか厭世的なイギリス男。妻は二度の流産を経験し、異国の生活に行き詰まりを感じている。
そこで軍事クーデターが起き、図らずも負傷した大統領を助け隣国へ脱出させようと奔走する姿を、いかにもイギリス映画らしい冒険活劇として描いていく。
ニュー・イヤー・パーティーとクーデター場面を絶妙の編集で繋ぐ冒頭、大統領が登場してからは動と静の緩急の付いた作劇で飽きさせずに見せていく。
イギリス映画で異国で大統領が絡む騒動に巻き込まれるというと「絶壁の彼方に」(1950)という秀作が思い浮かぶ。本作は、そこまでの作品ではないが、佳作の部類に入ると感じさせる内容。
日本では公開作も少なく評価が低いが、監督のアンソニー・アスキスは、母国イギリスではヒッチコックとキャロル・リードと並び称されたスリラーを得意とした人物。
本作は晩年に当たるので、些かキレの悪さもあるが、それでもそこいらの作品よりは、かなり面白い。
とてもマイナーな作品なので、知らない人が圧倒的であろうし、ジェット・コースター的スピードの作品を見慣れている人にはまどろっこしいと感じるだろう。
ただ、息も付かせずに手足を踏ん張る緊張感とは違う、山道で普通の自転車を漕ぎ続けるような不安定的恐怖感が続く作劇。
シニカルな主人公と情緒不安定気味の妻、そしてリベラルさを醸す苦労人の大統領を始め、脇役のキャラクター設定や、一寸した小物使いがサスペンスを徐々に盛り上げていく手法は、往年のイギリス映画らしさを感じさせる。
特に時間をかけて描かれる底なし沼の場面は、個人的に大好きな戦争映画「恐怖の砂」(1958)を彷彿とさせ、見入ってしまった。
大雑把で首をかしげるシーンもあるが、それでもこのリズム感の冒険活劇は大好きだ。