スタッフ
監督:ジョン・シュレジンジャー
製作:ロバート・エヴァンス、S・ベッカーマン
脚本:ウィリアム・ゴールドマン
撮影:コンラッド・ホール
音楽:マイケル・スモール
キャスト
リーヴィ / ダスティン・ホフマン
スツェル / ローレンス・オリヴィエ
ドク / ロイ・シャイダー
エルサ / マルト・ケラー
ジェーンウェイ / ウィリアム・ディヴェイン
ビーゼンタール教授 / フリッツ・ウィーヴァー
カール / リチャード・ブライト
ルクレール / ジャック・マラン
エアハルト / マーク・ローレンス
日本公開: 1977年
製作国: アメリカ エヴァンス&ベッカーマン作品
配給: CIC
あらすじとコメント
「日曜日は別れの時」(1971)の監督ジョン・シュレジンジャー。彼が「真夜中のカーボーイ」(1969)で起用したダスティン・ホフマンと再タッグを組んだ作品。同じくニュー・ヨークが舞台ながら身の毛もよだつサスペンスの佳作。
アメリカ、ニューヨークコロンビア大学の院生で歴史学を学ぶリーヴィ(ダスティン・ホフマン)は、以前よりもタイムが落ちたと嘆きつつマラソンをするのが日課だった。
そんな彼には兄のドク(ロイ・シャイダー)がおり、石油関係ビジネスで成功を収めている。だが、その実、兄は怪しげな行動を取っていた。
ある日、ドイツ人とユダヤ人の老人が互いの車越しに口論となり、タンクローリーに衝突炎上し、双方が死亡するという事故が発生。その現場を走りながら目撃するリーヴィ。自分には関係ないことだと走り去った。
一方、事故の報が南米ウルグアイにいるスツェル(ローレンス・オリヴィエ)の元に入り・・・
典型的な巻き込まれ型スリラーを凝った進行で描くサスペンス作品。
銀行の貸金庫からでてきた老人が、誰かに小箱を手渡した直後に事故で死亡。
小箱の受取人は主人公の兄。その後の兄の行動が実に怪しく、やがて命まで狙われる。
一方で交通事故を知り、南米から怪しげな老人がアメリカにやって来る。
こういった展開を断片的に観客に披露していく進行。
何やら犯罪がらみだが、主人公はまったく「蚊帳の外」で、自殺した父親を題材に論文を考えたり、走ったりと、いたって変化のない日常を送っている。
観客は断片的に描かれる情報から想像を張り巡らしての鑑賞と相成る。
徐々に南米から訪米してくる老人の素性が明らかになり、第二次大戦のアウシュビッツまで絡んで来て、とんでもない老人だと判明していく。
観客は兄がカギを握ると知り得ており、更に主人公の周りに怪しげな人間が散見し始める。
何故、主人公が巻き込まれるのかが釈然とせず、悶々としながら推理していく鑑賞。
常に意識的に描かれ続けるのは『対比』である。冒頭、主人公がマラソン中に追い抜かれたランナーに挑発され乗ってしまい、次にドイツとユダヤの老人が口論から大事故を起こしてしまうのも、「挑発と応酬」という妙な因果関係を連想させる。
事実、その事故が主人公が巻き込まれる原因なのだが。
そして主人公と兄の関係性。事故死する老人と南米から来た老人も「兄弟」。そして兄弟で全く違う性格。
死人もでてきて直接的に主人公にも被害が及び、ストーリィも二転三転していく。
謎を掻き立てる画面構成に、やり過ぎ感のある音楽が被さり、食傷気味にはなるが、キャストが素晴らしい。
同監督の「真夜中のカーボーイ」とは違う役者と思わせるホフマン、シャープでクールな印象が際立つ兄役のロイ・シャイダー。
しかし、本作の役者の白眉はローレンス・オリヴィエの圧倒的な存在感であろう。ヴェテランらしく風格がありながら、気弱という微妙な演技。
特に、本作を見ると「歯医者」に絶対行きたくなくなるというトラウマまで催させるシーンでのオリヴィエなど、背筋が凍る凄さだ。
スリラー・ミステリーとしては充分に鑑賞に堪えうる作品である。