スタッフ
監督:マルセル・カミュ
製作:サーシャ・ゴルディン
脚本:マルセル・カミュ、ジャック・ヴィオ
撮影:ジャン・ブールゴワン
音楽:アントニオ・カルロス・ジョビン、L・ボンファ
キャスト
オルフェ / ブレノ・メロ
ユリディス / マルベッサ・ドーン
ミラ / ルールデス・デ・オリヴィエラ
セラフィーナ / レア・ガルシア
ファウスト / ファウスト・ゲルゾーニ
エルメス / アレッサンドラ・コンスタンティーノ
死神 / アデマール・ダ・シルヴァ
チコ / ワルデター・デ・ソンザ
ゼッカ / アウリーノ・カッサニオ
日本公開: 1960年
製作国: フランス サーシャ・ゴルディン・プロ作品
配給: 東和
あらすじとコメント
「ジョルスン物語」(1946)は、白人が黒人メークで唄って人気を博した男の伝記映画だった。ならば今回は黒人系だけで作られた音楽系映画。ギリシャ神話をベースにリオのカーニヴァルを絡めた作品。
ブラジル リオ・デ・ジャネイロリオのカーニヴァルを見に、田舎から従姉の家を訪ねてきたユリティス(マルペッサ・ドーン)。彼女は大都会に戸惑いながらも、明日に控えた祭り気分が町中に溢れているのを見て感激していた。
そんな彼女を見染た市電運転手で美男のオルフェ(ブレノ・メロ)は、彼女を満員ながら自分の車両に乗せた。やがて終点の車庫に着くと疲れて寝ていた彼女を起こした。そこに彼の許嫁ミラ(ルールティス・デ・オリヴィエラ)がやってきて、祭用に臨時賞与が出たのを知って結婚指輪をねだった。オルフェはユリティスに惹かれていたが、嫉妬深い彼女の前では何も出来ない。
だが、彼女が訪ねた従姉の家は、オルフェの部屋の隣で・・・
カーニヴァルの狂乱下で繰り広げられる三角関係を描いた力作。
竪琴の名手が美女と結婚するが妻が死んでしまい、黄泉の国の支配者に懇願し、地上に着くまで振り返って後を歩く妻の顔を見てはならぬという条件で連れ戻そうとするが、というギリシャ神話がモチーフ。
この話はジャン・コクトーが「オルフェ」(1949)として映画化している。
それをベースにブラジルの庶民の話として置換した作品。
毎年、死者がでる祭りとして世界的に有名なカーニヴァル。『ラテン系ノリ』として認知され、狂乱のトランス状態になる。
貧民たちも、祭には金と名誉をかけチームとして参加し賞金を競う。
その花形スターが主人公。そして、いかにもラテン系らしく積極的に男性を籠絡しようとする女性も多数。
主人公もかなりモテる男で、誰よりも激しく接して、結婚を迫る許嫁。
一方のヒロインは恥じらいがある処女。といってもラテンの血脈。
ヒロインが頼る従姉だって水兵の彼氏がカーニヴァルに合わせて、久々にやって来るので熱情が燃え盛っている。
要は誰もがトランス状態。そこに『死神』が絡んでくる。
しかし、あくまでも死神の格好をした参加者として誤解されたりもする。
成程、映像的には一切、特撮などでて来ないし、様々な衣装で狂乱の踊りを披露し、観客もコスプレをしている。完全なる『カオス』状態であり本当の死神なのか混乱する。
明るいノリの場面と「死」を際立たせる画面構成。
そんな中で、印象的に映しだされるのは「紙ふぶき」。高揚した精神状態と荒涼とした寂寥感を描き分ける。
そして、宗教色も色濃く描かれ、どこか哲学的でもある作劇と進行。
しかし、何よりも素晴らしいのは音楽である。それまで世界的にはマイナーだったラテン音楽を使用し、後にジャズ・サックス奏者スタン・ゲッツと本作の音楽を担当したアントニオ・カルロス・ジョビンで世界中で「ボサノバ」として爆発的なブームを呼んだのだから、その手の音楽好きには堪らない作品でもある。
貧しいながらも年に一度の発散場所である「リオのカーニヴァル」。日本に於いては『ええじゃないか』をも連想させるが、民族の血脈の違いを感じさせ、成程情熱的であるとも痛感させられ、明治時代に数多くの日本人が移民した国でもあると複雑な心持にもさせられる力作。