自室で飲む珈琲。毎朝、まあ、今は完全に夜明け前だが、台所の電気を最小限に灯し、やかんを火をかけるところから始める。それから豆を手動式ミルで挽き、ネルドリップで淹れる。
それを早朝の儀式、というか日課にしている。
ある意味、贅沢であろう。この行為を40年も続けている。いつもだったら、豆は銀座の決まった店に買い求めに行くのだが、ふと別な店に興味が湧いた。
変化を好まない性格だが、銀座の店の焙煎士は何代も変わっていて、都度、味は微妙に変化している。
かといって、ネットで昨今の通販専門の焙煎豆を調べたり、日本中に拡がりを見せている自家焙煎を謳うこだわり店も、新規で覗きに行くのは憚られる。
で、その銀座の店の出身者が「明大前」と「阿佐ヶ谷」に独立し、長年営業している。
特に、明大前の店は一度も行ったことがなかった。丁度、編集部に挨拶に出向く用事があったので、その足で向かおうと決めた。
店の場所は、ネットで探し、地図と休業日は頭に叩き込んでおいた。
ところが、どうだ。イメージした場所に店がない。まったくもって勝手知らない場所だが、地図は読めるぞ。
近くに案内所があり、尋くと道路拡張とやらで昨年の中頃に閉店したと。
何ってこったよ。ネットには、褒めてある記事ばかりで、閉店情報は書き込んでなかったぞ。
一回だけ行って、それなりにコメントすればオッケーか。まるで、犬の小便のマーキング。これだからネット情報なんぞはあてにならないんだよ。
しかし、嫌が応もない。銀座に戻るか、阿佐ヶ谷に行って、閉店したことを尋いてみるか。イメージは阿佐ヶ谷が近いと思ったが、行き方が分からない。
駅前で茫然。しかもスマホの定着で、駅に乗換案内とか、大きな時刻表がないことに気付く。自分で調べろってことかよ。
どのみち電車代は、かなりかかりそうだ。しかも何らの戦利品もない。
結果、初めて井の頭線で吉祥寺方面へ向かい、そこから乗り換えで阿佐ヶ谷へ。
これは旅行だ。しかも実りのない。好天だったのが救いだが、何か隙間風てな感じだけど。
だが、そこだって15年以上振り。随分と年季が入った店になったと思いながら入店。店主が、ひとりで切り盛りし、自分を見て驚いた顔。見たことあるけど、誰だっけてな顔つき。
そうか10年近く前、肩を骨折し、体重が10キロ以上も落ち、生活習慣病悪化回避のため体重を維持しているから、随分と印象は変わったかもしれぬ。
それでも思い出してくれた。もう36年もそこで営業していると。明大前の店のことを尋き、銀座店は、もう知らない人間がやっているので、顔を出さないとかなり上から目線。
更にコーヒーの能書きを聞き、当初の目標通り、二種類の豆を買った。
で、帰宅した翌朝。買い求めたコーヒーを淹れると酸味が勝るブレンド味で、随分と昔の印象と違った。
寒く、暖房があまり効いてない薄暗い部屋で、時代の流れと味覚の変化を感じた。
次は、どこで豆を買い求めるか。それにしても、随分と高い珈琲豆だ。