スタッフ
監督:山下敦弘
製作:小川真司、根岸洋之
脚本:渡辺あや
撮影:近藤龍人
音楽:レイ・ハラカミ
キャスト
右田そよ / 夏帆
大沢広海 / 岡田将生
右田一将 / 佐藤浩市
右田以東子 / 夏川結衣
田浦伊吹 / 柳英里沙
山辺篤子 / 藤村聖子
右田浩太郎 / 森下翔梧
田浦カツ代 / 本間るい
大沢美都子 / 大内まり
松田先生 / 黒田大輔
製作国: 日本 「天然コケッコー」製作委員会
配給: アスミック・エース
あらすじとコメント
日本の原風景といえる場所。田んぼが広がり、小さな山を越えると海が広がる田舎。そこに住む子供たちには、そこが世界のすべて。でも、そこで少しづつ大人になっていく。
島根県のとある田舎。小学校と中学校が併設された学校。全校生徒は六人しかいない。一番年上は中学二年の、そよ(夏帆)。中一の後輩二人から入学したての小学一年生の女の子まで、全員が家族であり、兄弟のような学校だ。
夏のある日、そこに東京からひとりの男子が転校して来る。彼は大沢(岡田将生)という中学二年で、そよと同級だった。
そんな彼女たちは、大沢と打ち解けようと、彼を誘って海に行こうとする・・・
のどかさと爽やかさが入り混じる青春映画。
緑豊かで、のどかな風景が当り前に広がり、近くにある海はどこまでも碧い。学校の校舎は一部改築してあるものの木造平屋建て。校庭は土。プールはなく、まわりにあるのは海。
実に静かだ。そこに転校してくる東京生まれの思春期の少年。彼だけは、どこか都会人ぽく斜に構えてクールだ。
彼の母親は離婚しての出戻り。その上、主人公の少女の父親とも、かつて大人の事情があった模様。
だが、子供たちにはそんなことは関係ない。方言丸出しで、明け透けだ。
まるで、半世紀以上も前の昭和の風情。ある程度の年齢以上の人間には堪らなく懐かしい風景と自分に重なる子供像だろう。
郷愁を誘う場面が連続するが、設定は現在である。田舎町でも、家のキッチンは都会と変わらない。だが、誰も携帯電話やパソコンを持っていない。それでも、ごく普通に生活が出来る。
そういった場所で伸び伸びした自然児として育つ少女と、背伸びしたい思春期の少年。淡い恋心も芽生えるが、気持ちの昂ぶるリズムはまったく違う。どちらが正しく、どちらかが間違っているわけではない。
物語は、やがて新学期を向え、中学三年になった主人公二人が修学旅行として東京に行く展開になる。
少年にとっては、懐かしい故郷だ。かつての仲間たちとの再会もある。一方の少女は、初めての都会に戸惑う。だが、新宿の都庁を見て、ふと、故郷の山と同じ風の音が聞こえると感じる。そして、少しだけ大人になったと思うのだ。あくまでも、少しだけ、である。
実に素直だ。それも生まれ育った環境ゆえだろう。自然の申し子のような少女と都会育ちの少年。
お互いが背伸びしたいと思いながらも、まだまだ子供としての恥じらいと照れもある。微妙な温度差。甘酸っぱくもしょっぱい。それが青春なのだろう。
山下演出は、ノスタルジックさを強調し過ぎて、且つ、敢えて時代錯誤的リズム感も増幅させ、 些か綺麗ごと過ぎるきらいはあるが、素直で優しい日本人としての遺伝子を感じる。
だが、残念なことに現実では、そういった田舎でこそ起きる青少年の犯罪も多い。それは情報過多で頭でっかちになり、いびつな成長を遂げた所為だとも分析されている。
子供はいつから大人になるのか。一体、何が等身大の成長過程なのか。
あくまで美しい日本の原風景を見ながら、そういった疑問が鎌首をもたげるのは、都会育ちのひがみだろうか。