野のユリ – LILIES OF THE FIELD(1963年)

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スタッフ
監督:ラルフ・ネルソン
製作:ラルフ・ネルソン
脚本:ジェームス・ポー
撮影:アーネスト・ホーラー
音楽:ジェリー・ゴールドスミス

キャスト
スミス / シドニー・ポワチエ
マリア院長 / リリア・スカラ
ゲルトルード尼 / リサ・マン
アルベルティネ尼 / フランチェスカ・ジャービス
エリザベス尼 / パメラ・ブランチ
アグネス尼 / アイサ・クリノ
マーフィー神父 / ダン・フレイザー
アキリート / スタンリー・アダムス
アシュトン / ラルフ・ネルソン

日本公開: 1964年
製作国: アメリカレインボー・プロ作品
配給: ユナイト


あらすじとコメント

前回は「黒人」が主役の探偵モノ。ハリウッドに於ける、彼らの地位がどのように向上していったかに目配せしつつ、何本か紹介したいと思う。とくれば、黒人初のアカデミー主演男優賞を獲った本作から始める。

アメリカ、アリゾナステーション・ワゴンに荷物を積み、気ままに旅を続けているスミス(シドニー・ポワチエ)。特段の人生の目標もなく、どこか斜に構えたというか、人生をなめているような態の若者だ。

そんな彼の車がオーヴァー・ヒートを起こした。荒涼たる大地が拡がり、人影などない場所。だが、幸いにも荒れ地を耕す修道女たちを見つけた。近くの小さな家にマザー・マリア(リリア・スカラ)と四人の修道女で住んでおり、東ドイツから亡命してきて、この地に教会を作ると言う。こんな場所で、随分と奇特なことを仰るのは流石の聖職者と思うスミス。

水を貰い、お礼にと壊れた雨樋を修理してあげた。その姿を見た修道女たちは感動。夜も更けたので、スミスはテントを張って敷地内に泊まることにした。

翌早朝、マザー・マリアに叩き起こされた彼は、さあ、教会の建設を始めてと言われ驚く。何と、修道女たちはスミスを神が遣わせた救世主だと信じていたのだ・・・

人生の目標を初めて知る黒人の若者を描くハートフルな人情ドラマ。

楽しく気ままに生きようとしている若者。恐らくは差別を受けて来ていて、少しでも自由になりたいと、何のしがらみもなく一人勝手に旅をしている印象。

かといって、それが「自分探し」でもなさそうだ。

広大で荒涼とした場所には孤独が似合う。観ようによっては「アメリカン・ニュー・シネマ」の走りとも位置付けされる作品。

しかし、決定的に違うのは主役が、それまでは脇役の存在であった「黒人」であり、彼に影響を与えるのが「東側」から亡命した「修道女たち」。アリゾナのような場所では、どちらも完全なる『異邦人』だ。

そして人生に意味を持たぬ「アメリカの若者」と「教会の建立を実現」させると強い信仰心で信じ、神の使徒として黒人青年が遣わされたと確信し、金銭も払わず、こき使っていく院長。

嫌々ながらも協力し始め、英語を話せぬ修道女たちに黒人霊歌を教えたり、上手くコミュニケーションが取れていくのだが、院長の横暴ぶりに立腹し、途中で建設を放りだし、一度は去ってしまう。

観ている側は、当然、それが大団円になる布石であると簡単に想像が付く。

ラルフ・ネルソン監督の代表作であり、冒頭と再訪時の主人公の衣装の変化、曲がりくねったデコボコ道から、真っ直ぐで、いかにも母なる大地を感じさせる「道」の描き方など、解りやすく観客の心を掴んでくる。

成程、ポワチエが本作で主演男優賞にノミネートされ、それで受賞させなかったら、完全に『差別』と騒動になるであろう設定。

「アーメン」ではなく、「エーメン」と歌いだす黒人霊歌が、いつまでも耳から離れないハートフル・ドラマの佳作。

余談雑談 2020年8月15日
まったくギプスも取れずにイライラが募る今年の夏。 身から出た錆でもあるし、好き勝手ばかりを前倒しにして、大した我慢もせず生きてきた因果応報かもしれないが。 それに急激な気温上昇で出歩く気も失せている。でも、デリヴァリーと称する今風な出前系が