スタッフ
監督:ウィリアム・ワイラー
製作:ウィリアム・ワイラー
脚本:ルース&オーガスタ・ゲイル
撮影:ヴィクター・ミルナー
音楽:デヴィッド・ラクシン
キャスト
ハーストウッド / ローレンス・オリヴィエ
キャリー / ジェニファー・ジョーンズ
ドルーエ / エディ・アルバート
ジュリア / ミリアム・ホプキンス
アレン / レイ・ティール
フィッツジェラルド / ベイジル・ルイスデイル
スローソン / ハリー・ケリー
ジョージ / ウィリアム・レイノルズ
オランスキー夫人 / サラ・バーナー
日本公開: 1953年
製作国: アメリカ W・ワイラー・プロ作品
配給: パラマウント
あらすじとコメント
『古い恋愛映画』で続けてきて、今回は時代設定が20世紀直前という作品にする。ある意味、古色蒼然としたメロドラマだが、監督は名匠ウィリアム・ワイラー。当然、ただのメロドラマとは一線を画す良作。
アメリカ、シカゴ19世紀末の頃、ミズーリから姉を頼ってシカゴに来たキャリー(ジェニファー・ジョーンズ)であったが、就職先の靴の縫製工場で指を怪我してしまい、即日解雇されてしまう。途方に暮れるキャリー。
次の職探しに歩いていると上京途上の列車で声を掛けられたドルーエ(エディ・アルバート)に再会する。すぐに彼女の世間知らずを察した彼は金を渡した上に、折角だからと夕食を高級レストランでおごると言いだした。困惑する彼女だが、無垢なところもあり親切に接してくるドルーエを無碍にもできない。だが、彼には下心があり、遊び相手として同棲を考えていたのだ。
そんなこととは露知らず、キャリーは指定のレストランに行くと、場違いな姿で好奇の目で他の客たちから見られてしまう。困惑していると支配人のハーストウッド(ローレンス・オリヴィエ)が近付いてきて・・・
ありがちな不倫系メロドラマが格調高く昇華する佳作。
田舎娘と、名誉欲と上流志向が強い妻に辟易している高級レストランの支配人。男の方は押し出しも良く、インテリでもあり、威厳を兼ね備えた紳士然とした中年。
そんな二人が、遊び人というか、ペテン師もどきの男性を介して知り合う。
三角関係にならずにどうなるかは容易に想像が付く。
そうはいっても、どうしても「男性目線」からの着想であり、差別性をストレートに感じさせる展開ではある。
遊び人で結婚の意思がない「独身男」と己の自由願望優先の「不倫中年」。その二人に翻弄される、まさしく純粋ゆえの悲劇のヒロインとして描かれる前半。
しかし、以後の展開は実に妙味に溢れる。主人公である中年男は何とか理性的に抑えつつも心は暴走し、妙にポジティヴゆえに結果、人生に翻弄されていく。
そしてヒロインとの立場が変化していくのだが、そこに絶妙なる哀愁が漂い始める。
つまりは自業自得の成れの果て。自分で陥っていたみすぼらしさの極致に向かう展開。
男としては主人公に素直に肩入れできまい。それでもクライマックスに向けて、これでもかと凄惨性が加速していく。
それがまた切ないのだ。ラストのラストで、『救いの一手』的なところに落とし込まず、一歩踏み止まったことで通俗的メロドラマに陥らなかったと言えるだろう。
何よりもイギリス人俳優ローレンス・オリヴィエの圧倒的存在感と格調高い演技が、裏ぶれて、やさぐれて行く姿は見事の一言。
この格調高さはデビッド・リーン監督の映画史上の名作「逢びき」(1945)に匹敵する不倫ドラマと位置付けられようか。
それもウィリアム・ワイラーの手慣れて安心して見られる手腕も大きい。