スタッフ
監督:アルフレッド・ヒッチコック
製作:アルフレッド・ヒッチコック
脚本:アンソニー・シェイファー
撮影:ギル・テイラー
音楽:ロン・グッドウィン
キャスト
ブレイニー / ジョン・フィンチ
ラスク / バリー・フォスター
バーバラ / アンナ・マッセイ
オクスフォード / アレック・マッコーエン
モニカ / ジーン・マーシュ
ヘッティ / ビリー・ホワイトロー
フォーサイス / バーナード・クリビンス
ポッター / クライヴ・スィフト
スピアマン / マイケル・ベイツ
日本公開: 1972年
製作国: イギリス、アメリカ H・ウォリス・プロ作品
配給: CJC
あらすじとコメント
サスペンスの巨匠ヒッチコック監督。久方振りに母国のロンドンを舞台にし、彼らしい異常性が上手く背景とマッチしたと感じさせるスリラー。
イギリス、ロンドン元将校ながら今や厭世気分に満ち、勤務先のパブで盗み飲みするようなブレイニー(ジョン・フィンチ)。しかも反抗的な態度を取り、遂に解雇されてしまう。なけなしの金でまた、酒を飲んで歩いていると青果市場で働く友人ラスク(バリー・フォスター)に呼び止められる。何かできないかと援助を申しでるが拒絶するブレイニー。
完全なる負け犬ながら、自分では認めたくないようだ。それでも2年前に離婚し、現在は結婚紹介所を営むブレンダ(バーバラ・リー・ハント)のもとを訪ね、結局、愚痴を言う始末。
しかも翌日も彼女のもとを再訪したが、その直前、ブレンダは絞殺されていて・・・
連続殺人犯に間違われた負け犬男を描く好色スリラーの佳作。
厭世的で、自ら幸運を放棄しているような主人公。こちらから見ると当然の帰結にも見える。
ゆえに簡単に感情移入できない。というか、敢えてそんな主人公の設定にしておいて、ヒッチコック特有の『巻込まれ型』主人公なのだ。
監督の作品を追ってきた人間としては、実に複雑な心情になった。
殺人犯は早目に開示してくるのだが、その犯行形態が残忍で自分の着用しているネクタイで絞殺し、殺害後に衣服をはぎ取り捨てるスタイル。しかも連続殺人犯であり、作品内で描かれるのが主人公の関係者二名であることから、当然、追われる羽目になる。
その上、主人公は女性に嫌悪されるタイプで犯人に間違いないと断定するタイプがいる一方で、恋人や刑事の妻は擁護派だったりする。つまりは女性から両極端な印象を持たれるタイプでもある。まあ、好意的なのは少数派だろうが。
しかも擁護派の刑事の妻は凝りに凝った料理で亭主を閉口させるというルーティンや、女性の裸体とポテトが混在する連続性など、サブリミナル的演出も面白い。
殺人場面を直接、執拗に描いたと思えば、次は殺人鬼が女性のいる部屋に入り、ドアを閉めると今度はワンカットでカメラが引いて、道まででて行き、観客に想像させるとか、何ともヒッチの異常性と遊び心が上手く混在していて流石と思わせる。
更にはエロティックさと残虐性に満ちたブラック・ユーモアがサスペンスを盛り立てて行く進行で、やはりヒッチコックは、垢抜けた都会と広大な土地という明るくハッキリとしたアメリカよりも、何とも淀んだ明るさが勝るイメージのロンドンが似合うと感じさせる。