スタッフ
監督:ジョン・ボールディング
製作:ロイ・ボールディング
脚本:フランク・ハーヴェイ、A・バックニー、J・ボールディング
撮影:マックス・グリーン
音楽:ケン・ヘア
キャスト
ウィンドラッシュ / イアン・カーマイケル
カイト / ピーター・セラーズ
ヒッチコック / テリー・トーマス
コックス / リチャード・アッテンボロー
トラスパーセル / デニス・プライス
カイト夫人 / アイリーン・ハンドル
ドリー叔母 / マーガレット・ラザフォード
シンシア / リズ・フレイザー
治安判事 / レイモンド・ハントレー
日本公開: 未公開
製作国: チャーター・フィルム・プロ作品作品
配給: なし
あらすじとコメント
「ホットファズ/俺たちスーパーポリスメン!」(2007)でも、しっかりと踏襲されていたイギリス映画のシニカル喜劇体質。ならば、これぞブラックな英国コメディの傑作を取り上げる。
イギリス、ロンドン上流階級に生まれ育ったウィンドラッシュ(イアン・カーマイケル)は、口うるさい叔母の勧めで就職せざるをえなくなった。しかし、大変なことはしたくないし、自分が素直に『経営者サイド』として適当に過せる環境を選ぼうとした。しかし、現実はそんなに甘くなく、次々と不採用通知が来る。
そんな彼に、伯父と一緒に大学時代の同級コックス(リチャード・アッテンボロー)が、仕事を持ちかけてきた。「これからは労働者の時代だ。だから君もそちらサイドの仕事してみるのがベターだ」と。素直に応じるウィンドラッシュ。
そして伯父の経営する会社に一労働者として就職する。人事部長のヒッチコック(テリー・トーマス)には見向きもされず、工員らにも立ち振る舞いから別世界の人間と決め付けられた。しかも、労働組合長のカイト(ピーター・セラーズ)に眼を付けられてしまい・・・
いかにもイギリスらしいシニカルでクールなコメディの傑作。
純然たる階級制度がある国。人間は皆平等と謳うことは素晴しい。だが、それは『上流階級』からすれば「上から目線」の優しさであり、『労働者階級』からすれば「上昇志向」への妬みも含まれる。
否やと異論を唱える御仁もいよう。確かにそのとおりであり、それこそまさに『正論』である。
それに真っ向勝負した喜劇。主人公は貴族階級。汚れを知らぬといえば褒めすぎの世間知らずのボンボンでありオクスフォード大学卒業生でもある。しかも純真といえば聞こえは良いが単なる「バカ正直」。
だから、産業界でも大変なのは勘弁であり、軽い産業種で幹部候補として適当に生きたい。それこそが、自身の「身の丈」であるから、と。
そんなボンボンを大学の同級生でありながら、上手く利用しようとする悪友。しかも、やはり悪どい方式で金を儲けようとする伯父が加わって、ストーリィは妙な方向へ転がりだす。
当然、上流階級であり、搾取する経営者側はいかにも悪役として登場するので、労働者側は低賃金で過労働させられ搾取されていると描かれるかと思ったら大間違い。
彼らもトンデモナイ人間だと描かれる。だからこそ、いやらしく底冷えのする『イギリス気質』のコメディなのだ。
いやはや、どちらにも肩入れせずに双方に非があるというスタイル。
しかも、当時、新しい媒体であったTV業界までも、真面目くさっているが、決して「中立」ではないという描き方で、先行き予見でもある。
出演者も素晴しく、笑えるようで笑えない演技を披露している。
何よりもイギリスが生んだ変装名優のアレック・ギネス同様、以後日本でも認知される『怪優』ピーター・セラーズの本領が存分に発揮されていると感じるし、やはりイギリス・コメディの雄テリー・トーマスもイヤらしい名演を見せる。
しかし、確かに地味であるし、製作年度を考えれば、日本では未公開になりざるを得ないとも感じたが、21世紀の現在でも、否や、現在だからこそ、立派に通用すると感じるのは、自身が時代に背を向けた「ひがみ根性」ゆえだろうか。