三億円をつかまえろ   昭和50年(1975年)

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スタッフ
監督:前田陽一
製作:名島徹
脚本:菊島隆三
撮影:丸山恵司
音楽:山本直純

キャスト
横山 / 有島一郎
野島 / 長門勇
南波 / 谷村昌彦
米田 / 渡辺篤史
横山の女房 / 伊佐山ひろ子
食堂の親父 / 由利徹
正 / 森本稔
守衛の白井 / 三木のり平
ガードマン / 財津一郎
広田 / 草薙幸二郎

製作国: 日本
配給: 松竹


あらすじとコメント

埋もれた作品は数多い。本作も当時から話題にならなかった二本立て公開の添え物的扱いの方。斜陽産業であった映画界の元気のなさを象徴したような地味な作品だが、ヴェテラン脇役が集まると妙な哀愁を帯びる仕上がりになった作品。

神奈川、川崎窃盗での刑期を終え出所した野島(長門勇)。少ない金を握りしめ競艇場に姿を現すと、かつて悪仲間だった南波(谷村昌彦)と出会った。再会を懐かしむ二人は安酒場に行くが、野島が目を離した隙に僅かな金を盗ると南波は姿を消してしまう。世知辛い世の中になったと嘆く野島。

数日後、偶然南波を見つけた野島は何とか追い詰めて締め上げた。すると借金漬けの元職員の協力を得られるので農協の金庫を襲うオイシイ計画があると告げ、それで一儲けしようと誘う。しかし、それには金庫破りのプロが必要。二人には共通の男が頭に浮かんだ、腕利きの名人だが、現在は引退している横山(有島一郎)だ。

しかし、彼の現状というのが・・・

哀愁を帯びた敗残者たちの犯罪を描く喜劇。

前科者は、所詮、前科者で反省などしない。だから旧知の仲間に対しても平気で裏切るふてぶてしさがある。

いかにもの場末で再会した犯罪者仲間のひと悶着から、借金で首が回らない元農協職員の素人若者も加わって最後の大仕事を計画する。

丁度、三億円事件の時効成立が間近で、俺たちはプロだから同じく三億円だって奪えるぞと。

タイトルはここからきている。とはいっても、ありがちな設定ではある。

その成否に必要なのがヴェテラン脇役の有島一郎扮する「金庫破りの名人」なのだ。

その有島が、『お見事』の一言。戦前から活躍したベテラン俳優。軽妙で、どこか浮薄な持ち味があり、加山雄三の「若大将」シリーズで養子の弱味がある父親役が有名だろうか。

その彼が若い水商売の妻の尻に敷かれ、小さな子供を育てながら個人学習塾を営んでいる。そして子供が出来たので完全に足を洗い、貧乏ながら静かに暮らす喜びを見いだしたと旧知の仲間の誘いを断る。

しかし、老人ゆえに若い妻からは完全に侮蔑対象。その姿に仲間らは絶句するが、やはり彼なしでは遂行できないので、何とか説得すると絶対条件として犯行時に幼子同伴なら引き受けると言いだす。預ける相手もいないし、まして一人で放っておくわけにもいかないからと。

これが妙味となる。以外な展開や子供ゆえのサスペンスが加味されるだろうし、他の仲間たちは、所詮小悪党クラスで彼の協力なしでは断念せざるを得ないのだ。

子連れのギャングというのはリノ・ヴァンチュラ主演の「墓場なき野郎ども」(1960)にも登場するが、犯行現場に同行ではない。

しかも、それを犯罪者役など滅多にない有島一郎が演じるので妙味さが増す。

要は、どう考えても二本立ての添え物側作品である。主演の長門勇は「三匹の侍」シリーズで岡山弁で話す槍の名手・桜京十郎役で売れたが、浅草の芸人出身で主演級ではない。

そして谷村昌彦も出演作は矢鱈と多いが、やはり浅草出身の脇役専門。どう考えても地味な役者が勢揃い。

だが、そこに貧乏くさい低予算映画ゆえの二級酒のような雑味があるが、妙味もある旨さが醸される。

細かい整合性や編集の繋ぎなど、大雑把さも多く見受けられるが、こうなってくると、それらまでが場末感にマッチするから興味深い。

忘れ去られた作品、というよりも余程の映画ファンじゃないと存在すら知らない作品ながら、中々、どうしてこれぞ、松竹大船調と呼べる作品。

余談雑談 2022年2月22日
今回の都々逸。 「膝が重さを知ってるものを もとに戻せる知恵もなし」 ひざ枕で耳かきでもしてあげたのか。それとも午後のうたた寝。夏なら団扇であおいであげてたりもして。 その両方かもしれない。どの道、終わってしまったこと。思い出に浸り、残り香