スタッフ
監督:アルフレッド・ヒッチコック
製作:アルフレッド・ヒッチコック
脚本:ブライアン・ムーア
撮影:ジョン・F・ウォーレン
音楽:ジョン・アディソン
キャスト
アームストロング / ポール・ニューマン
サラ / ジュリー・アンドリュース
リント教授 / ルドウィッグ・ドナス
クチンスカ伯爵夫人 / リラ・ケドロヴァ
ヤコビ / デヴィッド・オパトッシュ
グロメク / ウォルフガング・キーリング
ゲルハルト / ハンスイェルク・フェルミー
コスカ / ジゼラ・フィッシャー
農場主 / モート・ミルズ
日本公開: 1966年
製作国: アメリカ ユニバーサル作品
配給: ユニバーサル
あらすじとコメント
スパイ・スリラーで、アメリカ人が異国で巻き込まれる作品。数多く作られた設定だが、その中から折角なのでヒッチコック作品にする。しかも御大の監督50本目の記念作品。
デンマーク、コペンハーゲン米国人のアームストロング教授(ポール・ニューマン)と、婚約者で秘書のサラ(ジュリー・アンドリュース)が、国際物理学者会議に出席するためにやって来た。
だが、すぐにアームストロングは謎の行動を取り、何やら暗号が書かれた本を見ると急にスウェーデンへ行くと言いだした。驚くサラ。夕方には講演があるにも関わらずなのだから。
到着直後から勝手な行動ばかりで自分を蔑ろにするのはいい加減にしてと怒り心頭、単身で帰国すると捲し立てるサラ。それでも止めないアームストロング。
ところがサラが帰国便を予約しようとすると、何と彼は共産圏の東ベルリン行きフライトを予約していると知り・・・
敵国に渡った学者と恋人を描くスパイ・スリラー。
自分が開発した核ミサイル迎撃システムが中止の憂き目にあう一方で、東側からは認められ亡命する物理学者。フィアンセは何も知らず隠れて主人公を東側まで尾行していくから、お互いに面倒が起きるという展開。
だが、単なる亡命な訳はないだろうから、どんな裏があるのかと観客は憶測前提の進行。
当然、相手国も秘密警察が真偽を確かめるため四六時中監視するし、本来仲間であるはずの同僚学者だって謎めいた行動を取る。
主人公が入国後に自分の意思で秘密裏に諜報活動に出るのは当然だろうし、一方フィアンセが恋人の謎行動が理解できずに困惑しきりになるのも当然ではある。
ところが敵側は、ヒロインも諜報活動をするのか単なる巻き込まれ型なのかの真意が測れずに、二人を別々に試すようなことばかりをしてくる。それによってサスペンスが生まれるし、敵陣とはいえ潜入している西側スパイグループも存在するからスリルが加速。
進行的には、割と早めに主人公の真の目的が明かされるのだが、おいおい本当に大丈夫かよとツッコミを入れたくなった。
何たって訓練を受けたスパイではなく、正真正銘の「物理学者」である。敵を欺き、フィアンセをも守り、殺人さえ厭わない強靭さを兼ね備えていなければ任務遂行は完全に不可能だ。
確かに、唯一の殺人場面は素人らしく七転八倒の挙句に協力者がいて、やっとの遂行である。
残念なのはそこが一番のヤマ場なのだ。つまり、全体を通してヒッチコックらしさが生きていなくて、どれも中途半端な尻切れトンボ的編集と進行。
往年の彼なら、もう「ひとひねり」なりがあるよなと感じさせる。要は肩透かしを喰わされる連続。
それでもクライマックスの科学者同士の数式による対決は妙味があったのが救い。とはいっても、お為ごかし的作劇のヒッチ作品にメソッド演技の雄、ポール・ニューマンというのは何とも相性が悪いと感じた。
その上、素直に大好きという感情のみが先行し挙句に巻き込まれていく無鉄砲なバカさ加減がまったく感じられないヒロインのジュリー・アンドリュースもいただけない。この設定なら、単純系を得意とするアメリカの女優が大勢いたのにと首を傾げた。つまり両名が完全にミスキャスト。
当時としては異色の組み合わせと売られたが、セット撮影がメインの妙に安っぽい合成場面の空間演出を得意とするヒッチコックと、深刻な演技の代表者と、得意な歌も踊り披露しない主演二名とは、そりが合わなかったのだろう。
全体的にアンサンブルがまったく感じられなく、かといってジャズのような個人芸のフリースタイルの妙味も感じさせない残念な印象。
ヒッチ御大ゆえに期待感大で鑑賞しようとすると「老いたり」と声を上げたくなるか。