スタッフ
監督:ルイス・ギルバート
製作:ダニエル・M・エンジェル
脚本:ヴァーノン・ハリス、ルイス・ギルバート
撮影:ジョン・ウィルコックス
音楽:ウィリアム・オーウィン
キャスト
ヴァイオレット / ヴァージニア・マッケンナ
フレイザー大尉 / ポール・スコフィールド
ブッシェル / ジャック・ウォーナー
ブッシェル夫人 / ドニーズ・グレイ
ジャック / モーリス・ロネ
デニース / ニコール・ステファン
リリアン / アン・レオン
暗号担当官 / マイケル・グッドリフ
ウィニー / ビリー・ホワイトロー
日本公開: 1962年
製作国: イギリス アーサー・ランク作品
配給: 日本RKO
あらすじとコメント
第二次大戦下でのスパイもので繋げる。前回は実在した犯罪者が主人公であったが、今回も実話を基にした女性スパイの話。
イギリス、ロンドン1940年、英仏軍のダンケルク敗走直後の7月。購買店に勤務するヴァイオレット(ヴァージニア・マッケンナ)は、フランス外人部隊の将校と知り合って、すぐに結婚し一女を儲けた。
しかし直後、夫は戦死してしまう。赤子を抱えて消沈する彼女の下に遺族年金の話があると陸軍省から呼び出しがかかった。実はそれは口実で、フランス人の母親を持ち、フランス語にも堪能な彼女をスパイとしてスカウトしたいというのだ。驚くヴァイオレットだったが、国家非常事態でもあり、役に立てるならと志願した。
そして厳しい訓練が開始され、変わり者と評判のフレイザー大尉(ポール・スコフィールド)と知り合って・・・
実在し波乱の人生を送った女性スパイを描く作品。
夫を亡くし諜報活動に参加を決めるヒロイン。しかし完全機密であり、両親にも一切真実を明かしてはいけない。
そして詳細を明かさぬまま小さな赤子を両親に預け、毅然とスパイ活動に没頭していく。
訓練中に知り合った優秀な諜報員とは以後、淡い思慕を感じつつ苦楽を共にするし、同僚の女性スパイ二名とも知己を得る。
とはいっても彼女らのメインの活動は情報収集ではなく、フランス国内のレジスタンスによるゲリラ活動の指導と支援である。
一回目の潜入活動は成功を収める。すると上層部はさらに危険な任務を提示してくる。直属の上司は反対するが、彼女は決死の覚悟で任務遂行にあたることにする。
奇を衒わず、かいつまんで実直に進んでいくスタイル。いかにもイギリスの地味で地道系な作品の系譜を踏襲している。
ヒロインは身を挺して国に尽くすし、それを順を追って描くので2時間弱の上映時間だが、どうにもチグハグさが先行する。長尺にしたくなかったからか、随分と無理して編集していると感じた。
要は、昔の日本でのTV放送用にかなり端折ったダイジェスト版的消化不良を感じさせる。しかもカットすべきところはそこじゃないとツッコミを入れたくなるのだ。
それにイギリス映画特有の「暗さ」が先行し、常に死を意識させつつ進行するのでカタルシスが昇華することはまったくない。何といっても実話の苦労話だからだろうが。
監督は堅実派のイメージが強いルイス・ギルバートで「007は二度死ぬ」(1987)などボンドシリーズ3本を演出している。ただし、シリーズの中では評判の高い作品群ではない。
出演陣も地味系だ。ヒロイン役のヴァージニア・マッケンナは、野生ライオンの赤ちゃんを育てる「野生のエルザ」(1965)あたりが有名だが、決して美人ではない実力派。だが、個人的には地味ながら好きな作品に出演している印象ではある。
上司役のポール・スコフィールドは後に「わが命つきるとも」(1966)でアカデミー主演男優賞を受賞する実力派だが、映画よりも舞台俳優のイメージが強い。
レジスタンスの闘士役は、本作前年に「死刑台のエレベーター」(1957)で印象を残したモーリス・ロネ。
そうはいっても完全に地味な作品に変わりはない。戦時下に決死の覚悟で活動するヒロインとして描くには、イギリス的敗者の美学と決して屈しない底力がいずれは好転すると思わせる好材料の設定なのだろう。
嫌いではないが、2時間を費やすにはしんどさを感じる作品。