北海道訪問の続き。一泊目の札幌の夜は、現地在住の友人より、こちらの嗜好性を知っている伝手からの情報が大正解であった。
いかにも古ぼけた「コの字居酒屋」で、北海道らしい「棒ダラ」、「にしん切り込み」が薄味で美味。しかも安いときたもんだ。流石だ、紹介者と思った。しかし、札幌はその一軒のみだったのが残念。
翌日から旭川近くの美瑛に別荘を持つ友人宅に、もう一人と合流し宿泊。聞くとそいつは二泊で帰り、翌日自分が帰る日にもう一人が来道し、また入れ違いで一人来るとか。
まあ住人が二週間も長期休暇を取ったから勝手に皆が来ることになった。揃わないのは残念だが、連日仲間が泊りに来るのは面倒だろうが、それはそれで楽しそうだと笑った。
ところが、である。まったく、ここのネタに困らないことが起きるから嫌になる。
合流当日、移住友人は多くの温泉があると荷物を置くなり、日帰り温泉が併設されたホテルに連れて行ってくれた。嬉しい気配りだ。
東京よりも当然涼しく避暑地感が満載。そこでの温泉。夜は数少ない町の居酒屋で楽しい宴。
で、問題は帰宅後。携帯電話がないのだ。しかも寄る年波か未体験の連続だからか、どこで落したのか記憶がない。友人二名は、温泉の貴重品預けで見たと言った。ならば直前の居酒屋か。
それなりに広い店であったが、母娘二名の切り盛りで、地元団体客やら観光客などで早くから埋まり、慌ただしくて新規客は断っていた。それでも、申し訳ないけど一応電話。坐っていた場所には落ちてないと返答。
となるとホテルか。夜間のフロントで人がいないので、翌朝6〜8時の暇な時間帯に再度連絡を入れることに。
友人が車内や室内ではと発信してくれたが、着信音は鳴らず。紛失となると遂にスマホか、もしくは携帯のない生活に変更かと。
翌早朝は、自分が早起きかを確認し、ならばと三人で観光客が殺到する前のラベンダー園へ行こうと相成った。曇り空ながら、まったく人のいない静けさの中、色とりどりの花が並び、まさに完璧なるベスト・シーズン。その美しさに酔った。まあ、そこにいるのは還暦過ぎたオジサン三名だが。
しかし、大事なのは携帯。友人がホテルに連絡してくれたが、何と忘れ物の届け出はないとの返答。
振出しに戻った。二日後には帰京だが、友人が一応交番に届けたらというので駐在所へ。もう一人が届け出後に出てくる自分をスマホで撮影し、釈放される犯罪者と笑う。良い歳をしてまったく。
でも、届け出書を書きながら、どこかであきらめが流れた。スマホに替えるぐらいなら他の奴らから静かにフェードアウトしていくさという負け惜しみも現実味を帯びてきた。それの引き金が異郷の地かよ。何だ、北海道は自分をノット・ウェルカムか。
ランチを食べ友人の車で観光し、夕方に昨日と同じ温泉ホテルへと相成った。念のためにと、支配人か役付きらしきスーツを着た若いスタッフに、折畳み式携帯が落ちてなかったかと尋いてみた。
すると、「ガラケーですね」と言い、フロント奥に入っていった。ちょっと待てよ、こっちが気を遣って「折畳み」とわざと言ったのに「ガラケー」と抜かしやがったぞ。ホテルマンのくせに気配りができないのか。
ところが、見覚えのある携帯電話が奥から登場。すぐに友人がコールしてくれて、これで自分のものだと証明出来ると。着信音が鳴り、事なきを得た。
しかし朝に尋いたら、ないと即答したぞ。全くどんな運営管理をしているんだと苦笑。そして、開くとそいつからの三度の着信のみで、他の着信やメールも一切来ていない。やはり携帯などなくても生きて行ける自分なんだなと情けなくなった。
でも、交番に取り下げに行き、それ以降何ら心配もなくなり滞在を楽しんだ。それにしても実に多くの観光客で溢れ、飲食店など、どこも長蛇の列。やはり今更どんな報道をしても、もはやあまり効き目がないのかとも思った。
最後の晩は夜便で帰京する友人を見送ると、別な温泉ホテルで露天風呂を楽しんだ。そこは小高い丘の上、暗くなった夜空に突然花火が上がった。何かのイベントだろうが、こちらの地元の花火大会は今年もまた中止。
メリハリがあり過ぎた旅の締めくくり。飲食店の選択や携帯紛失と何度もノット・ウェルカムかよと思ったが、夜空に咲く花火を見つめて確信した。結局、素敵じゃないか北海道。