寒い国から帰ったスパイ – THE SPY WHO CAME IN FROM THE COLD(1965年)

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スタッフ
監督:マーティン・リット
製作:マーティン・リット
脚本:ポール・デーン、ガイ・トロスパー
撮影:オズワルド・モリス
音楽:ソル・カプラン

キャスト
リーマス / リチャード・バートン
ナン / クレア・ブルーム
フィードラー / オスカー・ウェルナー
ムント / ピーター・ヴァン・アイク
ピーターズ / サム・ワーナメイカー
管理官 / シリル・キューザック
パットモア / バーナード・リー
カルデン / ジョージ・ポスコヴェック
アッシュ / マイケル・ホーダーン

日本公開: 1965年
製作国: アメリカ セーラム・プロ作品
配給: パラマウント


あらすじとコメント

前回紹介した「鏡の国の戦争」(1968)の原作者ジョン・ル・カレ。今回も彼による冷戦下の諜報員を描いた小説の映画化で、実に重苦しい作品。

イギリス、ロンドンベルリン支局で辣腕を振るっていたヴェテラン諜報員リーマス(リチャード・バートン)は東側に潜入していたスパイが数名殺され、ロンドンに呼ばれた。

どこに左遷させられるのかと思っていた彼に下されたのは「解雇」であった。滅入った彼は酒浸りになり職を転々とし始めた。職安の評価も下がり、益々自棄になるリーマス。それでもやっと図書館助手の仕事を斡旋された。そこで共産主義者を自負するナン(クレア・ブルーム)と知り合い、彼女の方から好意を告げられる。困惑するリーマス。

そして今度は得体の知れない男が近付いてきた。だが、それこそがリーマスの真の目的だった・・・

非情な諜報員の世界を描く重苦しいドラマ。

失敗から解雇になる諜報員。自棄になり落ちぶれて行くと接触してくる人物が現れる。東側のスパイで、主人公の情報を高額で買い取りたいと言ってくる。

そして、彼は東側に密入国で連れて行かれ敵側と交渉に入ることになる。

しかし、それこそが主人公の真の目的であり、その先を見据えた極秘指令を受けていたのだ。だが、当然敵側も彼のことを素直に信用するはずもなく騙し合いというか、探り合いの態を成してくる。

敵のボスは元ナチスの冷酷非情な男で、彼が主人公の部下を殺害していたのだ。しかし、相手側にはユダヤ系の幹部もいて、当然、内心忸怩たる思いもある。それを上手く利用しようとする主人公。

兎に角、登場人物たちが一癖も二癖もある人間ばかりで、恋人さえ単純な恋人なのかと疑心暗鬼にさせられる。

スパイとはジェームス・ボンドのようにクールで格好良いというイメージを払拭させ、実に裏街道の人間であり、人間性を持ち続けると失敗し、時には命まで落とすことになると示してくる。

そういった悩んだ挙句に機械のようになった姿を演じるリチャード・バートンの重厚なる演技が息苦しさと極北感を際立たせる。

共演陣も地味ながら実力派が揃い、緊張感を盛り上げ維持していく。

雪の降らない石造りの町並みの重たさと冷たさを感じさせ、人間性の排除と絶望が心底こちらの中に忍び込んでくるような作劇。

陽の当たる場面は一切なく、冷え切った非人間性のみが何ら希望の光を与えないスパイの世界を、まったく憧れることもなく白黒画面で描く後味の決して良くない嫌味さが勝るドラマ。

余談雑談 2022年8月13日
まったく、何て人生だ。人間生活に悪影響しか与えない酷暑。何が楽しくて灼熱列島の新記録更新中と驚嘆の声で放送しているのだろうか。 とはいえ、こちらも必然的に引き籠りが増加し、寝転がってTVか映画を見るか、背中を丸めて低いテーブル上のノートPC