スタッフ
監督:レスリー・ノーマン
製作:マイケル・バルコン
脚本:デヴィッド・ディヴァイン、W・P・リップスコム
撮影:ポール・ビーソン
音楽:マルカム・アーノルド
キャスト
ビンス伍長 / ジョン・ミルズ
ラッセル / ロバート・アーカード
バーロウ / レイ・ジャクソン
ベルマン / メレディス・エドワーズ
フォアマン / バーナード・リー
ホールデン / リチャード・アッテンボロー
軍部スポークスマン / アンソニー・ニコルス
ジューヴェ / ミシェル・シロー
軍医大佐 / ライオネル・ジェフリーズ
日本公開: 1958年
製作国: イギリス イーリング・スタジオ作品
配給: MGM
あらすじとコメント
「寒い国から帰ったスパイ」(1965)はイギリス上層部の見栄とプライド優先による下っ端への容赦ない切り捨ての話だった。今回も、その意識から派生した歴史上の史実を描いた戦争映画にする。
イギリス、ロンドン1940年5月初旬のこと。ドイツ軍がポーランド、フランスへと侵攻していた時期。新聞記者のフォアマン(バーナード・リー)や、軍需景気で自動車整備業が儲かっているホールデン(リチャード・アッテンボロー)らは、戦争はあくまで対岸の火事程度にしか思っていなかった。
方や、最前線に配置されていたビンス伍長(ジョン・ミルズ)らはドイツの猛攻で原隊を失い、土地勘もない場所を自力で撤退していた。
また、英軍総司令部はフランス軍の救援要請を断り、独自の作戦を採った結果、戦力が分断されてしまい・・・
英国の歴史的汚点である事実を忠実に描く戦争映画。
最新鋭の重火器や近代的な作戦方式を取り入れたドイツ軍に対して、旧態依然としたイギリス軍。
共にプライドは高い国同士であったが、伝統と格式にこだわり、頑なに変化を拒んだ軍と、進取の精神で世界制覇を目指した国。
結果は歴然である。西部劇の騎兵隊よろしくフランス軍を救援に行ったはずの50万人近いイギリス兵たちが、ドーヴァー海峡に面した北フランスの小さな漁港ダンケルクに、逆に追いつめられたのだ。「降伏」か「死」しかの選択肢しか残されていなかった。
そして、悲惨な状況を知ったイギリスでは700雙近い軍船は当然として、個人所有の小船から観光客船といった民間船約900艘までを総動員して、対岸の自国兵救助に向ったのだ。
これが歴史上の事実である。本作は、それを教科書的ダイジェストとして描いていく。
ただし、製作はマイケル・バルコン。ここでも数本取り扱ったか、イギリス映画お得意のドキュメンタリー・タッチと劇映画をマッチさせた「バルコン・タッチ」を確立した男である。
ロンドンで戦争など自分には関係ないと思っている小金持ちや、状況分析と先見性は持っているつもりの新聞記者といった市井の人間たちで始まり、それと同時進行で、戦場での分隊の生き残り兵士たちの姿が交互に描かれていく。
更に解り易くするために、イギリス軍上層部の価値観や、図案によるドイツの進行状況など、些か説明的に歴史的事実が挿入される。
戦闘場面も数名のイギリス兵の小競り合いが、大した派手さもなく描かれるのだが、時折、ハッとする戦闘機による銃撃シーンが混ざり、とりあえずは飽きない進行で見せていく。
そして中盤以降、ダンケルクに追いつめられてから、見事なる変調を見せる。それまでの鬱屈した気持ちが更に、大スケールでの爆撃や砲撃にさらされ、観る側も追いつめられていく作劇。
そのメリハリによる臨場感は、既に絶頂期は過ぎていたものの王道イギリス映画の残り香を感じさせる。
後半は、延々と港から脱出しようとして失敗する兵士たちと、逆にイギリスに戻った撤退者たちを見て現実を目の当たりにしたロンドン市民らが、今度はこぞって救出作戦に参加する姿が連続していく。
しかも、取り残された兵士は50万人近く。当然、何度も同じ船でピストン輸送するしかない。その間もドイツ軍の砲撃がある。
結果、33万弱の兵士たちの救出に成功するまでをキッチリと描く。しかし、当然残された6万有余は捕虜となったのだ。
結果、歴史は何を教示してくれるのか。アメリカが参戦するまでの英仏軍は世界のあちらこちらで敗走していくのだ。
ジャン・ポール・ベルモンドが出演した「ダンケルク」(1964)と併せて観ると、英仏双方の意識の違いが理解できて一興かもしれない。