スタッフ
監督:リチャード・アッテンボロー
製作:ブライアン・ダフィ─、R・
アッテンボロー
脚本:アン・スキナー
撮影:へリー・タービン
音楽:アルフレッド・ロールストン
キャスト
スミス / コリン・ファレル
ジャック / ポール・シェリー
ヨセフ皇帝 / ジャック・ホーキンス
カイゼル / ケネス・モア
グレイ外相 / ラルフ・リチャードソン
ベルトルート / ジョン・ギールグット
フレンチ元帥 / ローレンス・オリヴィエ
ヘイグ将軍 / ジョン・ミルズ
スティーヴン / ダーク・ボガード
日本公開: 1970年
製作国: イギリス アコード・プロ作品
配給: パラマウント
あらすじとコメント
前回の「軍旗の陰影」(1975・未)にも重要な役で出演していた俳優リチャード・アッテンボロー。後年は監督としてもメジャーになって行ったが、本作はその監督第一作。舞台劇を見事に映像化した反戦映画の佳作。
第一次大戦直前のヨーロッパオーストリアと同盟を結んだドイツは、小国であるセルビアと一触即発の状態に陥っていた。一方セルビアにはフランスとロシアが付いた。
そんな最中、オーストリア皇太子がセルビア人青年に暗殺されるに及んで、遂に第一世界大戦が勃発。中立を保とうと思っていたイギリスも連合国側で参戦せざるを得なくなった。しかし、当時のイギリスは志願制度であり、絶対的に兵力不足であった。ヘイグ将軍(ジョン・ミルズ)は様々な手法を用い、一種のお祭り騒ぎとして若者やら全国民を扇動し、こぞって戦争へと駆り立てた。
その中に大した意思も持たず言われるがまま徴兵に応じたスミス(コリン・ファレル)は、ベルギー戦線へ出兵していった。しかし、そこは想像以上に過酷な地域で・・・
痛烈な上層部批判を謳いあげる異色戦争映画。
元々は舞台劇でありオープニングは第一次大戦勃発までの欧州各国の首脳らのスタンスなりの簡単な経緯を舞台劇として描いていく。そこは独自性を感じさせはするが、どちらかというとありがちな出だし。
ただし、その場面だけでオイオイというイギリスの名優が勢揃いして驚かされた。戦争とは常に上昇志向と名誉欲と支配欲にまみれた『お偉いさん』が始め、実際の戦場では労働者や下層階級の若者がネズミか虫の如く死んでいく。
アッテンボローはイギリス映画に限らず「大脱走」(1963)、「砲艦サンパブロ」(1966)といったアメリカ映画など数々の作品に出演し、様々な監督の下で仕事をしてきた。
その彼が第一作で放ったのは異色作であり初見時は驚いた。完全なる反戦映画で、しかも替歌ミュージカルとして第一次世界大戦の流れを史実通りに教示してきたから。
そしてイギリスを代表する名優をこれでもかとチョイ役に至るまで起用し、戦闘場面は壮大なるロケーションで描いていく。
興味深いのは、その壮大な戦闘場面で死んで行くのは下層階級者であり、将軍ら上層部は安全なる場所で言い訳と詭弁で正当性を誇示しようとする。
その対比のために戦場はかなりリアルに泥まみれで絶望的な状況を常に描き、各国首脳たちの政治的駆け引きは上品な舞台劇として映しだされる。
そんな対比とは別に、イギリス上層部のシーンはロンドンから程近い場所に実在するアミューズメントパークの「ブライトン桟橋」でロケされ、何とも楽し気な雰囲気の中で描かれる。そこでの上層部や老紳士方は自国には戦火が及ばないので、まるで他人事のように牧歌的な姿で寛いでいる。その対比性が気色悪い。
若い兵士が死んで行く暗示は、赤い花が象徴的に映しだされ、始めこそ数本だが、やがて丘一杯の斜面に広がっていく恐怖など中々力が入っている。
様々な手法が実験的かつ革新的に紡がれていくが、中でも白眉は中盤で英独双方の若き兵士たちが塹壕で迎えるクリスマスの場面だろう。
アップとロングのショットをメリハリのある上手い編集で紡ぎ、ミュージカルらしく「歌」が重要なファクターとなって反戦色が色濃くでていると感じた。
2時間半の長尺ながら、結果的には初監督のアッテンボローは監督業に精をだしていくであろうと推察させるには充分な力作。