男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け   昭和51年(1976年)

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スタッフ
監督:山田洋次
製作:名島徹
脚本:山田洋次、浅間義隆
撮影:高羽哲夫
音楽:山本直純

キャスト
車寅次郎 / 渥美清
諏訪櫻 / 倍賞千恵子
ぼたん / 太地喜和子
池ノ内青観 / 宇野重吉
車竜造 / 下条正巳
車つね / 三崎千恵子
諏訪博 / 前田吟
志乃 / 岡田嘉子
観光課長 / 桜井センリ
観光課員脇田 / 寺尾聡

製作国: 日本 松竹
配給: 松竹


あらすじとコメント

東京、葛飾

寅次郎(渥美清)がふらりと故郷柴又の実家に戻って来た。折しも甥の満男の小学校入学日。成長した姿に喜ぶ寅次郎だった。

ところが妹の櫻(倍賞千恵子)が、担任から寅さんの甥御さんかと言われ、同級の親御さんたちから笑いが起きたと伝えられて大激怒。しかし、原因は今までの自分の所為だ。持って行き場のない感情のまま飛びだす寅次郎。

またぞろ旅空かと思いながら偶然入った酒場で、小汚い老人青観(宇野重吉)が偉そうなことを言いながら飲み逃げしようとしたのを見て不憫に思い、実家へ連れ帰った。しかしこの老人、何とも傍若無人な態度でとらやの人たちも閉口。流石の寅次郎も説教をすると、何だ宿屋じゃなかったのかと珍妙な返答。

それは失礼したと言い、紙と筆を貰い、何やら絵を描いて神田の古書店へもって行けと言いだして・・・

シリーズ屈指の名編と呼び声高い第17作。

主人公が偶然知り合ったヘンな老人。実は日本を代表する超有名画家。

飄々として非凡。ゆえに常人とは感性も行動も異なるが、その手の人間こそ寅次郎とは妙に波長が合う。

そんな画家は故郷である兵庫県龍野の市長に請われ、来訪したときに旅先の寅次郎と再会。そこで大先生は苦手な接待を寅次郎に任せるから、さあ大変という内容。

その宴席で登場してくるのが龍野芸者である本作のヒロイン。演じる太地喜和子が見事の一言に尽きるし、シリーズ屈指の存在感を醸しだす。

「おきゃん」で「コケティッシュ」という日本の女優には稀有な存在だと痛感した。ただし、映画出演には決して恵まれず、彼女の才能は舞台でこそ花開いていた。

他の映画ではストリッパー役でヌードも披露したりと熱演であるが、どうにも垢抜けず、映画出演となると本作が彼女の代表作と呼べるのは間違いない。

それは山田洋次や渥美清の才覚に影響され、彼女の素とも思える演技表現が開花した結果。なので本作では、何ともチャーミングで絶頂期のハリウッド女優シャーリー・マクレーンに重なる印象を受けた。

底抜けに明るい、単純な田舎者。人を見る目がなく薄幸型ヒロイン。それでも芸者らしく明るく振る舞おうとする姿が痛々しくも、可愛さが香り立つ。

間違いなく寅さんに惚れているヒロインであり、ストレートにそれを表現する。

確かにシリーズ中、浅丘ルリ子など複数回登場するヒロインとも、それなりの相愛ぶりが伝わるが、太地は一作のみだが、その相手役ヒロインとしての存在感は稀有である。

そしてチョイ役でなく、しっかりとサイド・ストーリーを奏でる日本画の大家役宇野重吉の浮薄の存在感も素晴らしい。

しかも彼は劇団民藝所属の名優で、同劇団から大滝秀治と佐野浅夫がともに印象深い役で出演している。

他にも宇野重吉の実子である寺尾聡も共演し、更に、戦時下、共産主義者の恋人と軍国主義を嫌いソ連に亡命していた岡田嘉子が、帰国後第一作として出演している。

この岡田の役どころは日本画大家の昔の恋人役。この老境の二人芝居の場面もシリーズ屈指の枯れた味わいの名場面である。

本作はヒロイン太地喜和子と日本演劇界の重鎮宇野重吉を迎えたことで見事なアンサンブルが生まれ、ラストの展開など思わず目頭が熱くなったほど。

それにしても太地喜和子という稀有な女優の雄姿を見るだけでも至福の時を過ごせる作品だと感じる。

余談雑談 2023年2月22日
今回の都々逸。 「いやな座敷にいる夜の長さ 何故か今宵の短さは」 今回扱った映画のヒロインが芸者。なので、花柳界の芸者が詠んだものしてみた。 水商売や接客業の女性なら今でも、前半部は思い当たるフシがあるだろうと推察。事実、かつて見栄を張って