スタッフ
監督:キャロル・リード
製作:キャロル・リード
脚本:ハリー・カーニッツ
撮影:デズモンド・ディキンソン
音楽:ジョン・アディソン
キャスト
カーン / ジェームス・メイソン
スザンヌ / クレア・ブルーム
ベッティーナ / ヒルデガルト・クネフ
ケストナー / エルンスト・シュレーダー
マーティン / ジェフリー・トゥーン
ハレンダー / アリベルト・ヴェッシャー
ホルスト / ディータ─・クラウゼ
クライバー警部 / カール・ジョン
リィツィ / ヒルデ・セッサク
日本公開: 1954年
製作国: イギリス ロンドン・フィルム作品
配給: 東和
あらすじとコメント
ジェームス・メイソンと名匠キャロル・リードのコンビ作。東西のスパイ戦に巻き込まれる女性を描く佳作。
西ドイツ、ベルリン
イギリス人のスザンヌ(クレア・ブルーム)は、軍医として派遣されている兄を訪ねて、旅行にやって来た。彼女を空港に出迎えたのは、仕事で忙しい兄の代わりに、現地で結婚した妻のベッティーナ(ヒルデガルド・クネフ)だった。すぐに兄の家に行く二人たが、かかってきた電話に突如様子がおかしくなるベッティーナ。ドイツ語がまったく解らないスザンヌだが、何やら只ならぬ気配を感じ取った。
その夜、帰宅した兄も含め三人でナイト・クラブに出向くが、そこでもベッティーナは挙動不審な行動を取る。益々、彼女に興味を持つスザンヌ。
翌日、東ドイツに簡単に入れると聞いて、女二人で出掛けた。西側に住むスザンヌには、全く違う雰囲気に興味が湧くが、そこでもベッティーナの態度は、どこかおどおどしてるのが気にかかる。
休憩のため偶然入ったカフェで、突如、カーン(ジェームス・メイソン)がベッティーナに近付いてきて・・・
東西の諜報戦に巻き込まれる一般女性を描くサスペンス・スリラーの佳作。
未だ戦争の爪痕である廃墟が残る場所へ旅行に来た若いイギリス女性。仕事に忙殺される兄と現地で結婚した兄嫁。
その義姉の挙動不審さに興味を持ってしまう。そこから、あれよあれよと東西の『大人たち』の事情に翻弄されていく内容。
米ソ関係が悪化し完全な冷戦になる前の時代。市民たちは割と簡単に東西ドイツの往来が可能。
しかし、あくまでも別な国である。当然、お互いの側に亡命を希望する人間もいる。ところがイギリスから来た若い娘は、そんなことには無頓着。だからこそ、純真さというか、素直さから『大人の事情』に首を突っ込んでしまう。
察しの良い観客なら、展開の先読みは難しくはないだろう。兄嫁を何か陰謀めいたことに加担させたいという東側の人間たちが、困惑する兄嫁ではなく、ヒロインから懐柔しようとあの手この手で迫ってくる展開になる。
その中に、主人公であるジェームス・メイソンが絡んでくる。この主人公が、中々、厄介な男だから盛り上がるのであるが。
監督はイギリスが生んだ名匠の一人、キャロル・リード。本作の四年前に映画史上に残る「第三の男」(1949)を輩出している。
だからか、随所に「第三の男」をイメージさせるシーンやカット割り、画面構成が登場してくる。
ただし、キャストの弱さや撮影監督の違いで、どうしても見劣りしてしまうのも事実。それでも幾百の凡作スリラーよりは、かなり良く出来ているといえよう。流石イギリス映画の王道であるサスペンス・スリラ─であると感じさせる。
特に後半のヒロインが図らずも東ドイツに入ってから脱出を試みるシークエンスは、畳み掛けるようなスリルとサスペンスが連続し、白黒映画の本領が発揮され、身を乗りだす面白さ。
時代性もあろうが、メロドラマが優先されるので内容としてはもたつき感が否めないもののイギリス映画黄金時代のサスペンス・スリラーが好きな人間は、観ておくべき作品であろう。