悪の階段   昭和40年(1965年)

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スタッフ
監督:鈴木英夫
製作:金子正且
脚本:鈴木英夫
撮影:完倉泰一
音楽:佐藤勝

キャスト
岩尾 / 山崎努
下山 / 西村晃
ルミ子 / 団令子
小西 / 加東大介
熊谷 / 久保明
お京 / 久保菜穂子
社長 / 清水元
巡査 / 佐田豊
第二課の刑事 / 土屋嘉男
主任刑事 / 渥美国泰

製作国: 日本 東宝
配給: 東宝


あらすじとコメント

日本に於ける犯罪映画。諸外国の丸パクりからコメディ系まで様々製作された。その中でも異彩を放つ、これぞ日本製フィルム・ノワールの極致の一本を紹介する。実にサスペンスフルなドラマ。

東京

密取引の現金100万円以上を金庫から奪った男たち。主犯格で頭の切れる策士岩尾(山崎努)、前科三犯の下山(西村晃)、建築会社社長のお抱え運転手小西(加東大介)、若い溶接工熊谷(久保明)の四人である。

裏金であることから被害届も出せないことを承知の上の犯行であった。続いて四人は大手建築会社全従業員分の給料4000万円を狙うことにする。社屋新築工事の時に全員で作業員に化け詳細情報を仕入れ、銀行から運ばれた現金が二日間金庫に置かれることを知った。

岩尾の綿密な計画の元、実行されまんまと全額強奪に成功する。しかし、当初から岩尾はいきなり大金を分配すると思わぬところから綻びが出るから新興地の外れに不動産屋を借り、そこの地下金庫に隠すことを前提としていた。

自分はそこに愛人のルミ子(団令子)と住み込み素知らぬ顔で営業をし、金庫の二重の鍵はそれぞれ下山と小西に管理しろと渡した。

そうすれば誰もが簡単に抜け駆けできないと・・・

ありがちながら見事な展開を見せる和製ノワールの優秀作。

金庫破り四人の犯罪グループ。主犯はクールな策士で恋人もいる。その恋人も悪女然としたタイプ。前科持ちのいかにもの悪党、小心者の印象を与える若僧、そして妻に頭の上がらない運転手。その他に建築会社の社長愛人も絡んでくる。

メインは訳アリ人間ばかり。とはいっても裏街道専門のプロでもなさそう。そのあたりからして不安定感が漂い、どこか脆弱な関係性が浮かぶ。

当初こそ格好良い言動を取るが、所詮小悪党たち。半年間など我慢できるはずもないだろうと推察していると、果たして当然の如く仲間割れが発生し、死者も出てきて疑心暗鬼になり、それぞれが様々な策を弄そうとしていく展開。

誰もが誰もを信用し切ることはなく、それは異性間でも同様で何かあれば裏をかいてくるのではというサスペンスをキャストそれぞれの微妙な表情変化や意味深なカットで提示し続け、サスペンスを積み上げて来る。

監督の鈴木英夫は一部にコアなファンがいた監督。自分も恥ずかしながら当時は意識的に作品を観に行った監督ではない。それでも独特のタッチがあり、且つ気負いがない。

かと言って当時の粗製乱造時の犯罪映画を撮ってきた多くの監督のような大雑把で投げやり感もない。どこか繊細さを感じさせ、それが逆に神経を逆なでしてくるタイプ。つまりとても優れた監督であると位置付ける。

時折いかにものショットを挿入したり、陰影を強調する画面構成の連続で飽きさせない。やはり、この手の映画は白黒でなければ本来の異様な緊張感には包まれないであろうと痛感させてもくる。

完全にフランス製のフィルムノワールを意識しつつ、アメリカの犯罪映画とも一線を画し、岡本喜八のような遊び心もなく、あくまで正攻法でありながら、かといって異質感もない日本製の印象。スマートさとクールさがこれほどイヤミのないリズムで醸されてくると『安定した稀有さ』さへ感じさせる。

ゆえにこの手としては特筆に値する作品であると確信させられた。ある意味で傑作に近いと呼べる犯罪映画。

余談雑談 2023年11月1日
今回の都々逸。 「恋というのは縁から始め 円がなければ続かない」 言い得て妙ですな。「縁」とか「赤い糸」を信じていたとか、素直に恋愛を楽しめたのは幾つの頃までだったか。もしかして20代ぐらいは引き摺っていたか。あくまで希望論とか運命論。もし