スタッフ
監督:野村芳太郎
企画:佐田啓二
脚本:松山善三、多賀祥介
撮影:川又昴
音楽:芥川也寸志
キャスト
秋根信次 / 石崎二郎
澄川登 / 西村晃
澄川ゆき子 / 榊ひろみ
井上良平 / 玉川伊佐夫
井上芳子 / 葵京子
林捜査官 / 三井弘次
鈴木主任 / 織田政雄
牧課長 / 細川俊夫
武山 / 佐藤慶
佐伯 / 浜村純
製作国: 日本
配給: 松竹
あらすじとコメント
日本でも数多く制作された犯罪系映画。昔は「東宝」「東映」「大映」「日活」「松竹」と大手五社がしのぎを削っていた。中でも松竹は小津安二郎から山田洋次に至るまで家族向け作品の印象が強い。そんな松竹が輩出した力作を扱う。戦争の影を引きずる刑事ドラマの妙味溢れる力作。
東京、日本橋
停車中の車の運転手が狙撃され死亡した。警察が捜査に乗り出すが、白昼で周囲はビルだらけで目撃されそうな場所でもあり何とも大胆不敵な犯行でしかも一発で仕留めていることから相当な腕前の持ち主だと推理した。
多くの刑事が動員され、若い秋根刑事(石崎二郎)はヴェテラン澄川(西村晃)とコンビを組まされた。しかし澄川は妹のゆき子(榊ひろみ)が秋根と付き合っているのを快く思っていないのでこれを機に何とか二人を引き離したいとも思っているようだ。
着実に捜査を続ける二人だが狙撃された男の身元は判明せず焦りを感じていた。するといわくありげな小料理屋で林(三井弘治)に声を掛けられた。
撃たれた奴の正体を知っていると・・・
狙撃事件を追う刑事たちの姿をセミ・ドキュメンタリータッチで描く隠れたる力作。
江戸川べりの立石近くで何やら袋に入ったものを受け取り車で日本橋に向う男。
そして彼が狙撃の被害者となる冒頭場面。当然、訳アリ風情であり車内から運転手目線で前方を見ていると、突然カメラが大きく回転しピントがずれていく。
狙撃され意識が遠退くことを表現し、今度は脚がブレーキから離れ、そのまま車がゆっくりと走りだし街頭に激突し大破。
ここまでほんの数分だ。流れるような場面構成に鳥肌が立った。続いてすぐに狙撃場所特定シーンへ繋がり、捜査課長が周囲のどこからも見られずに射撃可能なピンポイントを見つける展開。角度的に「左ききでなければ犯行不可能」と断定し左ききのみを探せと命令する。
それからは定番の地道な聞き込み捜査という態で進行するが、その一つ一つの繋ぎ方が何とも小気味良いタッチで飽きることがない。
観る側には犯罪絡みの内紛かと推察させておきながら、実に意外な方へと話は転がっていき、思わず膝を叩いてしまった。実に上手い作劇と展開なのである。
銃撃された被害者の正体を追う主人公コンビだが、あまり情報が得られないのは仲間内が隠匿しているのではなく別な理由があるからという事実を明らかにさせ、そこから狙撃者探しと相成っていくのだが、その登場シーンもくすぐりが利いていてニコニコしてしまった。
主人公の若い刑事と恋人役の俳優は大成しなかったが、実に個性溢れるマイ御贔屓脇役が多数出ているのもポイントが高い。特に脇役専門でいつもは気の弱い善人役が多い織田政雄、特徴あるダミ声でクセのある役ばかり演じる三井弘次の両名が意外な役で登場し歓声を上げてしまった。
更に以外なのは俳優の佐田啓二が企画者として参加していること。監督は後に「砂の器」(1973)を撮る野村芳太郎で、同じく撮影の川又昴、音楽の芥川也寸志とも本作で既にタッグを組んでいる。
大好きな東宝の監督岡本喜八のアクションとも違うリズミカルさとシャープさで映画を引っ張っていくチームの才能は大したものだし、間違いなくジュールス・ダッシンの秀作「裸の町」(1948)の影響を受けているとも感じる。
上映時間は90分にも満たないが、説明すべきところは明確に表現し、端折れるところは潔くカットし独特のリズム感を醸す。脇役陣の安定した演技に酔い、冒頭の日本橋以外は敢えて場末的な葛飾区の一部や、盛りは過ぎたものの今でも変わらない浅草の百貨店屋上や内部、そして何よりも終盤の東京湾のシーンは『夢の島』埋立地である。
これらのリアルなロケ地をバックにした映像は大変貴重性を感じるし、ラストも決して大団円でなく、どこかフランス製ノワール映画のクールさに加え、更に突き放す雰囲気を醸している。ただ、戦争の悲劇性と後遺症を描く点が微妙にウェットさが強調されるのが難点。
埋もれてしまった感はあるが、もし鑑賞するチャンスがあるならば、絶対に観るべき力作である。